3人の「富の再分配論」

コロナで我慢を重ねたこの1年半で所得のアンバランスが発生したと考える政治家や経済専門家は多いと思います。そのアンバランスを修復するためコロナ最盛期には各国とも様々な支援金や助成金をばらまき、パッチワークをしてきました。ここにきてやや落ち着きを見せる中、応急処置から中長期的な視点で不平等で歪んだ所得分布に対して富の再分配を主張する声が大きくなってきました。その中で3人の意見の違いに着目しています。

その3人とは岸田文雄、枝野幸男、習近平の各氏です。

岸田氏ですが、新内閣を「新時代共創内閣」と名付け、新しい資本主義の実現を目指す、としています。基本的には「令和版所得倍増計画」とも称され、子育て世代への教育費、住宅費支援、介護士/保育士などへの待遇改善、賃上げ企業への税制優遇をもくろんでいます。この政策は一般的に中間層へ厚い支援とも称されています。

枝野氏は自民党総裁選の頃、立憲民主党独自の政策を次々と発表、その中で経済政策について「分配無くして成長なし!みんなを幸せにする経済政策」と称した具体的プランを発表しています。内容は時限的減税と給付金、ベーシックサービスの充実、雇用の安定と賃上げ、(企業の)研究開発の強化、これら財源として富裕層と大企業への優遇税制是正とあります。特に話題になったのが一番目の時限的減税で年収1000万円以下の所得税1年間免除が目玉ではないかと思います。1000万円というと結構な高所得者も入るな、と思いますが、政策全体のトーンはより下の収入層へ手厚いカバーをするという見方が強く、岸田氏の中間層重視策に対して枝野氏の案は低所得者層重点型とされます。

最後、習近平氏が掲げているのが「共同富裕」で格差を縮めて社会全体が豊かになることを意味します。そのための中間層の勃興を目指すとしていますが、基本的には全体を均すという感じで上から下までをより平等にするという発想です。そのために企業や個人で資産や利益、収入が多いグループに対してごっそりその「余剰の富」を下に再分配するというものです。

岸田プランが財源を使い、中間層勃興を図るのに対して枝野、習近平氏は富裕層や大企業の余剰分を下層に動かすという点で大きな違いがあります。但し、岸田プランに株式所得への課税強化となる金融所得悪玉論が入っており、それが大変不評を買っている点は事実です。3名に共通しているのはどの政策も富の偏りを修正しようとしている点です。広義の社会保障政策であり、これだけ聞けば自民党もだいぶ中道左派に近くなってきたな、という気がします。

ただ、私ならその手段はとらないと思います。コロナで見えたものは生き残れる業種と生き残れない業種がまるでリトマス試験紙につけたように明白に答えが出たのです。赤の酸性と青のアルカリ性の意味とは経済、経営の再配置が必要だという意味であり、その為に強みをより強くし、弱みのグループに対して多少時間をかけてでも強みを強化していく構造的変化を促進させるべき政策を打ち出すべきだと思うのです。

つまり、経済構造そのものを改変していくよい機会なのです。例えば当地では中小企業がオンラインビジネスを導入するための補助金が出ました。日本にもあったもののハードルが高かったと理解しています。政府はチャンスを与えてくれたのです。それでも淘汰が起きたとすればそれは経営側の問題という割り切りがあるべきです。資本主義の原点もあります。

日本でファックスがいまだ普通に使われているという話題がありました。パソコン、できない、ネットで処理、そんなこと、この歳になってやらせるのか、という訳です。しかし、覚えていますか?手書きが無くなり、ワープロが出てパソコンが出た時、世のお父様方は必死で人差し指を使ってキーボードと格闘していたことを。あの頃は新しいものに向かっていくチカラがあったのです。だけど今はないのでしょうか?

ドライと言われるかもしれませんが、政府の支援を無限に続けるわけにもいきません。ではバブル崩壊後に多数生み出したゾンビ企業を今回もまた支援するのでしょうか?もちろん、アジアでは皆で平等に分けるという発想が北米に比べて強いため、細く長く、という発想は尊重しています。ただ、地球儀レベルの構造的変化に対してどう対応するか、という側面ももっと捉えるべきではないでしょうか?

その点では三氏のプランは皆、耳障りが良いのですが、足腰を鍛えるものではないと思っています。中間層を手厚くしても消費が伸びるわけではありません。モノ不足だった池田内閣の時のような7年で所得倍増にもなりません。この30年、我々は満たされたために総需要不足論があったわけで今の人々は余資があれば老後の蓄えに勤しみます。これが今の経済です。お金は回りにくい、だからこそ回すために経済を刺激するアイディアを育てることが最優先だと私は思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月7日の記事より転載させていただきました。