米国の史上初のデフォルトは、2011年に続き今回も回避される運びとなりました。
共和党のマコーネル上院院内総務は10月6日、声明で債務上限引き上げを容認すると発表。民主党のシューマー上院院内総務がこれを受け入れ、10月7日に上院は債務上限法案引き上げを50対48で可決しました(残り2人は共和党のブラックバーン議員(テネシー州)とバー議員(ノースカロライナ州)で、反対票を投じたわけではなく無投票)。引き上げ額は約4,800億ドルとなり、12月3日頃までの政府資金を手当てしたことになります。米下院でも、可決されるでしょう。
10月18日頃のデフォルトを回避したとはいえ、2ヵ月先送りしたに過ぎません。さらに、未だ育児支援や医療保険拡大、気候変動対策を盛り込んだ3.5兆ドルの歳出法案をめぐる紛糾は続きます。
つなぎ予算から問題を振り返り、今後を占っていきましょう。
―民主党始動部、当初はつなぎ予算と債務上限凍結を一本化した法案を目指す―
民主党のシューマー院内総務とペロシ下院議長は9月20日、 ①12月までのつなぎ予算、②8月から再導入された米連邦債務の上限適用を中間選挙後となる2022年12月まで凍結―などを一本化した法案成立を9月末までに目指す方針を表明。民主党指導部の方針に合わせ、下院は9月21日に民主党の賛成のみで一本化法案を220対211で可決しましたが、上院は9月27日に同法案の審議入りを50対48で否決。9月29日にも米下院が連邦債務上限凍結の法案を219対212で可決したものの、上院で議事妨害の回避に必要な60票を獲得できるはずはなく、交渉は難航を極めておりました。
チャート:米下院民主党の3.5兆ドル歳出案
―つなぎ予算のみ、成立で与野党合意―
9月末までにつなぎ予算を成立しなければ政府機関の閉鎖を余儀なくされるなか、民主党上院は漸くつなぎ予算単体での成立を支持する共和党と譲歩する道を選びます。上院は9月30日に65対35で、下院も254対175で可決。こうして、12月7日までのつなぎ予算が成立し、政府機関の閉鎖を免れました。
余談ながら、政府機関の閉鎖後のS&P500はというと、「北野誠のトコトン投資やりまっせ。」でご紹介した通り、上昇する傾向にあります。1980年以降、政府機関は15回閉鎖されて、14回(93.3%)は閉鎖終了から1ヵ月後に上昇。平均リターンは3.3%高でした。これは、財政に関する悪材料出尽くしが背景と考えられます。
チャート:政府機関の閉鎖を受けたS&P500のリターン
―米債務上限問題をめぐり与野党が対立した理由―
米債務上限問題をめぐっては、2つの障害が立ちはだかります。まず共和党ですが、3.5兆ドルの歳出案に債務上限引き上げを盛り込むならば、財政調整措置を通じ民主党単独で成立すべきと主張していたんですね。これは、引き上げに合わせ歳出規模の削減を求めるものです。中間選挙を控え、物価が高止まりするなか、インフレを引き起こす財政赤字の拡大を与党の責任とする印象操作の狙いもあったのでしょう。また、民主党が3月に追加経済対策を単独で財政調整措置を使って成立させた上に、再び大型財政出動を単独で可決させようとしていたため、共和党の態度は一段と硬化していたというわけです。
しかし、民主党内部で3.5兆ドルの歳出法案をめぐる正面衝突は続き、今回、共和党はしびれを切らして短期の債務上限引き上げに譲歩したことになります。
―3.5兆ドルの歳出案をめぐる、民主党中道派VSプログレッシブの戦い―
3.5兆ドルの歳出案の成立を目指す民主党も一枚岩ではなく、少なくとも2名の上院議員が規模の削減を要請。その一人のマンチン議員は、①インフレ加速、②財政悪化、③ロックダウン再開時に備えた財政余地の確保、④テロなど不測の事態発生時に備えた財政余地の確保―の必要性を訴え、その上で、1兆~1.5兆ドルであれば支持する構えを示す。ただ、同氏は石炭生産で全米2位で、保守寄りなウエストバージニア州選出なだけに、歳出案にある気候変動対策の規模削減が真の狙いなのでしょう。上院議席数は50対50ですから、財政調整措置を使うにしても1人の造反も出せないだけに、民主党指導部が頭を抱えたことは想像に難くありません。
一方で、仮にマンチン氏の要請を通せば、民主党は下院プログレッシブに減額を呑ませる必要が生じます。2年に一度改選となる下院議員にしてみれば、中間選挙を控え法案の一部削除と規模縮小は命取りとなりかねず、プログレッシブは一丸となって抵抗したわけです。挙句の果てにプログレッシブは、3.5兆ドル規模の歳出案の可決なしに共和党と超党派で成立した約1兆ドルのインフラ法案を成立させないと人質に取る始末。9月30日にペロシ下院議長と協議後も、下院民主党の進歩派議員連盟“コングレッショナル・プログレッシブ・コーカス(CPC)”のトップ、ジャヤパル議員は態度を変えませんでした。
こうした流れを受け、共和党が譲歩してデフォルト回避に動いたわけです。
バイデン大統領は9月29日に開始された年次の米議員による野球大会に出席した他、10月1日には米議会を訪問するなど、仲裁に入り、3.5兆ドルの歳出案は1.9~2.3兆ドルで落としどころを探ります。そうなれば、法人税率が下院が掲げた26%から、25%へ引き下げられる余地も出てくるでしょう。その他、足元の世論調査で気候変動対策への意識が高いといえないなか、同案で妥協を強いられるようにも見えます。
チャート:米国人の最大の関心事(経済政策を除く)
しかし、バイデン大統領の支持率はタリバンによるアフガニスタン陥落後に低下をたどり、クイニピアック大学の世論調査結果では、遂に就任以来初の40割れとなる38%を記録してしまいました。世論調査平均の支持率をみても、支持率はジリ貧で10月7日時点には44.6%と過去最低を更新しています。
チャート:バイデン大統領の支持率、新型コロナ感染者がピークアウトしてもじわじわと切り下げる状況
バイデン政権の支持率低下は、11月2日予定の知事選にも悪影響を及ぼしつつあるもよう。バージニア州とニュージャージー州では11月2日に知事選を予定するなかで、前者で異変が生じているのです。バージニア州では、民主党のマコーリフ候補のリードは一時の5%ポイント以上だったところ、直近では共和党のヤンキン候補に1%ポイント以下と僅差にまで追い上げられてしまいました。ちなみに、バージニア州での知事の任期は4年で1期のみで2期連続の就任を認めない一方で、知事経験者が再度就任することは可能。マコーリフ氏は、2014~18年に知事を務めていました。
中間選挙を踏まえ、民主党は一刻も早く内部対立を幕引きさせ、世紀の歳出案をまとめる必要があります。ペロシ下院議長は今月末までの成立を目指しますが、果たして妥協を導き出せるのか。法人税率を始め、与党内の攻防は引き続き米株市場に影響を与えそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年10月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。