温暖化対策の難しさが議論を曲げる
米プリンストン大の真鍋淑郎氏ら3人がノーベル物理学賞を受賞します。地球温暖化を科学的に予測する研究が世界で評価されました。2、3度の気温上昇でも、気候の大変動がもたらされる。
壮大な気候変動モデルは1967年、1989年などに発表されました。世界各地における異常気象の多発、国連のIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書、脱炭素社会化の動きなどを背景に、ノーベル賞を授与し、国際社会の取り組みを加速したいと、選考委員会は考えましたか。
6次報告書は「地球温暖化について、人間活動の影響は疑う余地はない」としております。「国際社会を動かした影響の大きさを考えると、受賞は遅すぎたくらい」「温暖化懐疑論もくすぶっていた。真鍋氏らの受賞で科学的に決着をつけた」との指摘が聞かれます。
「決着がついた」というより、真鍋氏らのモデルが「正しいと評価された」という表現が適切でしょう。真鍋氏らの研究(大気・海洋・陸上の相互関係を組み込んだ温暖化予測)はその後、精緻化され、地球全体の気象予測で実践的に使われ、理論の正しさが立証されています。
これに対し、ネット論壇などでは、温暖化懐疑論が絶えていません。私が望むのは「部分的、局地的な反論、反証ではなく、反証するのならば、真鍋氏らのモデルのように全体を精緻に俯瞰する総合的なモデルを提示して語ってほしい」ということです。
懐疑論は、いくつかに分けられます。「二酸化炭素などが温暖化の主因ではない」(→温暖化対策は不要)、「温暖化は認めるとしても、地球への影響を過大視し過ぎている」(→パリ協定は有害)、「温暖化は事実であり、適切な温暖化対策をとることが重要」(→対策重視)などです。
まず、IPCCの報告書を真っ向から否定する識者がいます。「『広範囲かつ急速な変化』などおどろおどろしく書いてある。自然災害の増加は観測されていない。地球の平均気温なるものは、現実の暮らしとは関係がない。中世温暖期、寒冷期もあり、気温変動に人類は対処してきた」と。
温暖期、寒冷期が今後もあるとしても、CO2による温暖化を否定することにはなりません。温暖化による気温上昇が地球的な気温変動に上乗せになると考えるのが正しいのではないか。
都市熱(ヒートアイランド現象)の影響も大きいという説が聞かれます。これもCO2による温暖化に都市熱が上乗せになるということでしょう。
ノーベル賞選考委員会は「真鍋氏らの研究は確かな科学に基づいている」とします。IPCC報告書を問題視するなら、真鍋氏に匹敵する壮大で科学的な理論、研究成果を示して、反論して欲しいと思います。
次は、温暖化は騒ぎすぎとの主張です。「人為的温暖化を否定する人はほとんどいない。問題は温暖化の実害はどれだけ大きいのかにある。さらに温暖化を防ぐコストはその効果に見合うか」と。
実害が過大視されているというのなら、やはり真鍋氏が予測した具体的な気候変動への反論を聞かせてほしいと思います。
真鍋氏の研究では、「海洋、大気、地表間の水循環が21世紀後半に平均で5%強化される。そのため、低緯度の亜熱帯、高緯度地帯、シベリアや北米の河川、半乾燥地帯、穀倉地帯での水分、降水量が変化する。水を必要とする地帯は乾燥が進む」など、言及する実害は具体的です。どう反論するか。
さらに「再生エネルギーで原発を代替して、ゆくゆくは再エネ100%にという論者は特に日本の場合は非現実的だ」という指摘もあります。確かに日本にとって、どのような対策が効果的かが極めて重要です。
「原発縮小、再エネ拡大、ガソリン車禁止、石油・石炭火力の廃止」などを徹底したら、経済社会に与える影響は日本が大きい。特に自動車、電力、石油業界は深刻ですし、多くの産業に影響が及びます。
真鍋氏は「気候変動の理解は難しい。変動から生じる政治や社会の出来事を理解することはもっと難しい」、「対処する方法を見出さなければならない。どういう行動をとるべきかも考えているところだ」(記者会見)と。
90歳の高齢ながら、いずれ研究の成果が明らかになるのでしょう。温暖化懐疑派には、部分的、局地的な指摘ではなく、真鍋氏に匹敵するような大きな構想のもとに、問題提起、解決策を提示してもらいたい。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年10月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。