台湾問題、習近平氏の本気度

習近平国家主席が10月9日の辛亥革命記念の演説の際、「台湾問題は完全に中国の内政で、外部のいかなる干渉も許さない」「祖国の完全統一という歴史的任務は必ず実現しなければならないし、必ず実現できる」(産経より)と述べました。これを受けて台湾の大陸委員会が「台湾の未来と発展について決定権があるのは台湾人だけだ」「断固として国家主権を守る」(同)と反発しています。

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習近平氏の「台湾併合」への熱意は香港併合後、いよいよ本気度を増してきています。香港民主化運動の頃囁かれていたのは香港は中国の一部だが台湾は明らかに距離があるのでそこまで踏み込むにはハードルが高い、でありました。しかし、中国はハードルを本気で乗り越える、そんな状況になってきました。

一つには来年、習近平氏の異例の三期目を迎えるにあたり、党の士気を高めるための「材料」が必要であり、そのターゲットが台湾になる、ということかと思います。

10月9日、バンクーバーで開催された台湾建国110年記念「双十節ディナー」には約500人ぐらいが集まり、大臣や議員も多く参加し、久々の大規模イベントでした。台湾の歴史は何を起点とするか次第でいろいろあるとする説もありますが、一般には中華民国の建国をベースにし、辛亥革命の1911年10月9日を祝うようです。イベントでは一部議員からカナダによる強い台湾支持の声も上がりましたが、中国を刺激するようなことは一切なく明るく楽しいイベントでした。それ以上に感じたのは台湾人の結束感でしょうか?非常に熱いものがありました。

さて、その台湾の近代史ですが、かつて清朝の傘下にあったものの「化外の地」(中華思想において文明の外でそこに住む人を蛮族とし、台湾や新疆がそれにあたった)とされ、本土からの多少の移住者がいたものの先住民の力が強くとても統治された状況にありませんでした。清朝もその気すらなかったのです。

その中、1874年に明治政府による台湾出兵が行われます。これは台湾に漂着した宮古島島民54人を台湾先住民が殺害したことに対し、清朝にクレームしたところ、「化外の民で清政府の責任範囲でない」とされたことで出兵したものです。これが世界の目を台湾にひきつけた初のケースと思われ、結局それから21年後の1895年、日本は日清戦争に勝利し、台湾を領有します。

次の局面は第二次大戦後で中国本土の共産党対国民党の戦い後、敗れた国民党が台湾に逃げてきたこと、蒋介石は不評だったけれど李登輝が台湾を大きく変え、発展させる源となった点を理解しておく必要があると思います。

こう見ると中国からみた台湾とはそもそも興味もなく統治もしておらず、内戦で負けた国民党が現在の台湾の発展の原点になったが、それを含め歴史的には中国が支配する構図はなかったのです。

ではなぜ、いまなのでしょうか?いくつか切り口があると思います。一つは中華思想的な拡大志向、二つ目に民族合体、三つ目に仮想敵国アメリカに対峙するための太平洋へのアクセス確保、四つ目に台湾経済活動を取り込むこと、五つ目に習近平氏の崇拝を高めるためだろうと考えています。

今の状況からすると中国は実力行使に出る、とみた方が確実です。それもそれほど時間的猶予はないと思います。仮に今、それに踏み込んだ場合、アメリカは手を出せないとみています。アメリカの外交部は口で言うほど強い行動力を持ち合わせていません。バイデン政権なら口先介入で終わる可能性が8割以上でしょう。そうであれば中国にとって敵なしなのです。

我々にできることはないのでしょうか?英国のジョンソン首相が香港民に対して英国への移住をウェルカムしました。歴史的つながりがあるからです。ならば、日本も台湾と歴史的つながりがあるので台湾の人にそれを提供できるか、であります。

英国が香港人300万人受け入れを示していますが、日本政府が最低でも100万人単位の移住者受け入れを行うこと、もしそれがあり得るならその受け入れ基盤は九州が最適ではないかと考えています。単に移住者を受け入れるというよりカナダ方式の経済移民方式にして高い技術や能力を持つ人を受け入れる頭脳流出ならぬ「頭脳流入策」をとり、少子化と地方の疲弊に対する活性化案とするものです。

半導体の最大手TSMCがソニーなどと熊本に工場を作る計画を固めています。以前にも申し上げた通り、台湾の重要性の一つはこの半導体製造でありこれが中国の支配下になると西側諸国はどうにもならない状態になります。日本は国策として台湾の先端事業を早急に取り込み、その場所を提供すべきなのです。それこそアメリカ的に言えば土地の提供などあらゆる誘致策をだし、官民一体となった支援があってもいいでしょう。

たぶん、私の主張は日本の方には受け入れられないと思います。お前は人の土地だからそう勝手なことを言えるのだろう、と。しかし、今はそんなことを言っている場合ではないし自分のことだけを考える時代でもないのです。人口が増え、投資があれば地方は潤うでしょう。それこそ、日本政府が特区をつくり、インフラ整備までしてあげてもよいぐらいです。

岸田政権がどこまで踏み込めるか次第です。踏み込めないと思いますが、ならば民間主導でそういう形に持っていくというのもアリではないでしょうか?中台関係はそれぐらい切羽詰まっています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月11日の記事より転載させていただきました。