キューバU-23 代表選手12人の失踪の背景にあるものは?

U23ワールドカップに参加したキューバ代表チームの選手たち
出典:DIARIO DE CUBA

今年に入って15人の選手が失踪

10月に入ってキューバの野球選手が失踪するという事件が再び起きた。今回は24人の選手から構成されていたキューバ代表の内、12人が姿を消した。これまでの最高は1995年に5人の選手が失踪したことだ。

今回の失踪事件はU-23 ベースボールワールドカップがメキシコのソノラ州オブレゴン市で開催されていた期間中に発生したものだ。今年5月にも東京オリンピックの出場権を懸けた大会で3人の選手と代表チームの心理専門医が失踪するという事件が発生していることから、今年はこれまでに15人の選手がキューバを離れたことになる。

彼らが失踪する理由は明白だ。現在キューバが置かれている経済の苦境と社会主義国の抑圧された体制の中で将来への発展はない。その一方で、キューバの若い野球選手たちは情報化の発達によって対岸の米国では多くのキューバ出身の選手が活躍して高給を稼いでいることを知っている。しかも、彼ら若者はキューバ革命時のことを知らないし、むしろカストロ兄弟による自由のない社会体制に飽き飽きしている。これらのことが影響して彼らは機会あればキューバを出国したいという衝動に常に駆られている。

例えば、現在大リーグでは24人のキューバ人選手がプレーしている。シカゴ・ホワイトソックスでプレーしているホセ・ダリエル・アブレウ選手は年俸1800万ドルを稼いでいる。彼は2013年にキューバを脱出している。ヤンキースのアロリディス・チャプマンやドジャーズのヤスマニ・グランダル両選手は年俸1700万ドル。

またマイナーリーグでは155人のキューバ出身の選手がプレーしており、その内の80人が大リーグに昇格する可能性をもっているという。(10月5日付マイアミの「ディアリオ・デ・クバ」から引用)。

トランプ前大統領はキューバ人選手の米国への移籍合意を反故にした

オバマ元大統領の政権時にキューバ政府と合意に達し、キューバ選手が大リーグと契約した際にその契約額の25%をキューバ政府が受け取るということになっていた。

ということで、キューバの選手が米国でプレーできることになっていた。ところが、トランプ氏が大統領に就任すると、キューバの外国からの資金源を断たせるというのが理由でこの合意を破棄した。

大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏も「キューバ政府は野球選手を儲けの駒のようにして大リーグにその権利を売ろうとしている」と述べて、この合意破棄に賛成を表明していた。(同上紙から引用)。

スポーツを発展の象徴にしようとしたキューバ

故フィデル・カストロ氏はキューバ革命を行った際に、それまで米国の影響下にあったキューバの野球を成長させてあたかもキューバ革命が成功しているという証の一つにしようとした。同じような意味で、野球以外にもキューバはスポーツに力を入れて来た。その甲斐あってキューバの野球チームは強いと評価されるようになった。

1962年からキューバはワールドカップを25回獲得している。ところが、オリンピックにプロ選手が参加できるようになってからは米国や日本の前に陰りを見せるようになった。しかも、キューバを襲った経済苦境がそれに追い打ちをかけた。それが顕著に見られるようになるのが2017年以降である。キューバ代表チームが大試合で勝てなくなったのである。今回のU-23ワールドカップでも選手の失踪事件が起きたが、銅メダルを賭けた試合でコロンビアに敗退して4位となった。

今回失踪した選手の中で注目されているのは19歳のロイデル・チャペリ・ジュニアと23歳のヤンディ・エルモシーリョの両選手だ。特に前者は大リーグのスカウトが競って契約を望んでいる選手だという。

一方、失踪することなく帰国した12人の選手を前に国家スポーツ連盟のラウル・フォルネス副会長から「あなたたちが取った行為に我々は誇りに感じている」と述べ、失踪した選手の責任は米国政府にあるとした。(「エスプン・デポルテス」から引用)。

しかし、帰国した彼らを待っているのは雨が降ると水たまりができるほどにひどい状態の野球グランドだ。