中国では不動産バブルが弾けるといっているのに西側諸国はその真逆で不動産がバブル化しているというのがブルームバーグの「住宅バブルリスク、欧州全域で高まる-東京も『過大評価』組の上位に」という記事です。世界9都市がバブルリスクが高く東京は10番目でギリギリのところにあるというものです。
元記事はスイス最大銀行、UBSが発表する世界不動産バブル指数です。同銀行の調査部門が毎年発表しているもので世界の25の主要都市の不動産価格を調査しています。私も早速その元レポートをチェックしました。
バブルリスクの高い上位9都市はトップのフランクフルトをはじめとする欧州都市が6,カナダが2,香港となっています。アメリカ主要都市はリスク度は普通ランク以下で最高位が12番のマイアミ以下、ロス、サンフランシスコとなり、以外にもニューヨークはランクが低くなっています。また住宅バブルで苦しむソウルは調査対象に入っていません。
この調査におけるバブルの定義は理論的価格や健全性との乖離で収入や賃料、貸し付け状況や新規供給などを分析したものとあります。
例えばカナダは第2位のトロントと6位のバンクーバーについて来年にも金利上昇が見込まれる中、住宅価格のバブル破裂のリスクは高いと解説されています。一般的にはそうかもしれませんが、私は残念ながらトロントもバンクーバーも住宅価格のもう一段の上昇、そして継続した上昇があるとみています。つまり、レポートの警告を裏切るとみています。
理由はカナダ特有の経済移民政策で毎年人口の1%以上である40万人を受け入れているので分譲賃貸に関わらず移民の需要だけでも毎年約6万戸弱の新規住宅が必要になります。ところがパンデミックで許認可プロセスがスローダウンしたこともあり新規着工件数が需要に追い付かなくなります。
もう一つは近年の集合住宅のデザインがより複雑でかつ、高機能性を持たせていることから建築コストはうなぎのぼりになっています。当地では最終販売価格がsf当たり1000-2200ドル、つまり100㎡の集合住宅でざっくり9000万円から2億円が開発業者が打ち出す価格水準です。先日も若い銀行員と話をしていて郊外に6300万円の集合住宅を買ったのだけどバブル破裂で価格が下るのが心配で眠れないほどだと呟いていました。
カナダがバブルとは言い切れないのは開発事業費からみた供給側のコスト及び高い潜在需要から今や1億円の不動産は誰も驚きもしない価格帯である点でしょうか。その分、賃金も上がっているし、買い替え用不動産も上がり、投資を通じた老齢年金の価値の上昇などで備えある人には許容できる状況にあるともいえます。
では東京です。UBSのレポートには不動産価格については日本全国を見た場合、東京の一人勝ちとあります。何故でしょうか?別のデータを見てみましょう。首都圏の新規着工数は20年前の年間8-9万戸からわずか3万戸程度に下がっています。また、コロナで住宅需要が高まったこともあるでしょう。中古マンションの在庫数は22か月減の35000戸を切る水準となっており、買い手にとっては選択肢がかなり少ない状況にあります。そのために需給が締まり、価格が上昇するというトレンドに乗っているものと思われます。
今後、建築費が相当高騰することが見込まれ、デベロッパーは供給を絞らざるを得ないとみています。一方、買い替え側は新規購入したくとも物件価格に手が届かない、ないし物件そのものがないという状態になり不動産の流動性が下がってしまい、ますます価格が上昇しやすい傾向が出てしまうのです。
ではこれを政策的に抑える方法はあるか、と言えば日本はかなり難しいかもしれません。理由は不動産価格の抑制だけのために金融政策を引き締めることができないからです。唯一の方法は郊外に出るしかなく、70-80年代に騒がれた「痛勤片道1時間半」や新幹線通勤が視野に入るのかもしれません。
いわゆる公示価格や路線価をみていると非常に緩やかな動きでまさかバブルとは思えないのですが、見るデータを変えるとその絵面はすっかり変わるという典型的例なのでしょう。人口減ではありますが、古い木造住宅が多く耐久性などから買替需要は一定数見込まれるとみています。
先日記載したように円安が進行すれば海外の不動産価格との比較から東京の不動産でも安いということになりますので海外からの資金が流入して火に油を注がないとも言い切れないとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月19日の記事より転載させていただきました。