アルゼンチン、今年のインフレは50%超になる見込み

昨年1月、ブエノスアイレスのセントラル・マーケットで買い物をする人々。JUAN IGNACIO RONCORONI (EFE)
EL PAIS

今年1月からのインフレは既に37%

アルゼンチンの今年9月の予備選挙で惨敗した政府与党は11月4日の中間選挙(下院の半分の議席と上院の3分の1の入れ替え)に向けて内閣の改造などを実施して有権者からの支持回復に取り組んでいる。

ところが、インフレは留まることを知らない。10月に入って、国家統計局は9月のインフレが3.7%であったことを発表し、昨年10月から12か月の累積インフレは53.4%になっていることも明らかにした。今年1月からのインフレは既に37%まで上昇している。

アルゼンチンの食品で非常に重要な位置を占める牛肉の価格を見ると、昨年9月から焼肉アサド用の肉だと85%、ミンチ肉は73%、鶏肉は68%とそれぞれ値上がりをし見せている。フレッシュミルクは68%。どれも前述9月までの累積インフレ53.4%を上回っている。

9月のインフレが3.7%だったというのに、小麦粉は6.1%、オリーブオイル5.8%、コーヒー10.8%、トマト20.7%といった具合で9月の平均インフレ率3.7%を上回っている。それが9月以降のインフレの上昇を導くのである(10月15日付「クラリン」同月14日付「エル・パイス」から引用)。

因みに、最近4年間のインフレは26%(2017)、34%(2018)、53%(2019)、42%(2020)と記録されている。そして今年は50%を超えるインフレになることが予測されている。

90日間の主要品目の価格の凍結を実施

アルベルト・フェルナンデス大統領は来年1月7日までの90日間、食品など日常生活に欠かせない1245品目の価格を凍結させることを決定した。しかし、この凍結策はこれまでアルフォンシン、キルチネール、クリスチーナ・フェルナンデス、マクリの4人の大統領が実施しているが、一度も功を奏したことはない。一時的に価格の上昇は収まるが、凍結期間が終了したあとはそれまで以上に価格は上昇するのが常となっている。

昨年はコロナ感染による影響で経済の後退を招いたが、それでも価格は上昇して行った。アルゼンチンで商品の価格をコントロールしようとしてもそれが機能したことは一度もない。逆に、価格の凍結を実施すれば生産業者は利益の損出を懸念し生産量を控えるようになる。それが品不足を生んで需要を押し上げてさらに価格の上昇を生むようになる。

問題は慢性的に外貨が不足していること

アルゼンチン経済の問題は根本的にドルが不足しているということにある。それには輸出が必要である。ところが、アルゼンチンのGDPの規模は世界24位であるのに輸出のGDPに占める割合は14.5%でしかない。それは世界ランキングで191カ国の中で130位というお粗末な結果になっている。

輸出品目は食肉や穀物など一次産品が主体で加工品の輸出が非常に少ない。だから稼ぐ外貨も付加価値が少ない。

工業化を図ろうとしてもそれへの関心がこれまでも低く、例えば外国の自動車メーカーが進出して来ても、その部品の70%は外国から調達せねばならない。国内でそれに応えられるだけの部品メーカーが存在しないからである。しかも、これら国内の部品メーカーは過当競争を経験していないので価格的にも割高になる傾向がある。だから尚更輸出力はなく、また需要に応えるだけで競争を避けようとする。それで挙げた利益は外国のタックスヘイブン地区に預ける。利益を積極的に投資して企業を拡張してコストダウンから輸出力をつけようとすることに関心が低い。

それは他の業界においても同様だ。市場での競争が少ないので希望する価格で販売しようとする。それがまたインフレを煽ることに繋がる。例えば、200社ある大手企業の内の60社はライバルがいないという寡占状態にあるという。しかも、労働組合が邪魔して雇用の削減も容易ではなく生産効率を上げることを邪魔している。

その一方で国民もペソの継続した下落からドルを保有しようとする傾向にある。そのため、ドルへの需要は非常に高いが、その需要に応えるだけのドルがないという悪循環に繋がっている。しかも負債をドルで抱えているためペソが下落すればそれだけ負債額も増える。

また少ない外貨の流出を防ごうとして進出して来た外国企業の資金の流れをコントロールしようとするためアルゼンチンから撤退する企業も出るという例もある。

ドルを稼ぐことへの取り組みに如何に消極的かというのを示す例として政府は牛肉の高騰を抑えるべく輸出を禁止して、それを国内に回して供給過剰を生んで価格の下落を図ろうとした。それが成功しなかったことは過去にもある。輸出を禁止することによって外国の顧客を失い、同時にいつも不足している外貨の獲得もできなくなる。

隣国のウルグアイは牛肉の価格を抑えるのに安価な肉をブラジルとパラグアイから輸入して国内市場に向け、上等の牛肉は従来通り輸出に向けた。このようにして牛肉の国内での価格の値上げを抑えた。このような柔軟性のある策がアルゼンチンでは伝統的にできないのである。しかも、輸出には税金を課して競争力を削ぐこともやっている。

マクリ前大統領がこの悪循環を払拭しようと試みて自由経済に転換させようとした。ところが厳しい財政支出のコントロールができずインフレの上昇を招き、貧困者の増加にもつながり再選を達成できなかった。