つなぎ予算を9月末に成立させ、共和党の譲歩により10月に債務上限を引き上げた米議会ですが、民主党内での3.5兆ドル歳出案をめぐる交渉は続いています。
しかし、プログレッシブと中道派の内部対立解消に向け、漸く希望の光が見えてきました。
ワシントン・ポスト紙によれば、バイデン大統領は民主党議員との協議で、3.5兆ドルの規模を1.75兆~1.9兆ドルへの縮小を提案。この規模であれば、上院中道派のジョー・マンチン議員(ウエストバージニア州)の提案額に近づいており、クリスティン・シネマ議員(アリゾナ州)などが受け入れる可能性を点灯させます。
バイデン政権側は、規模を縮小しても①メディケア(高齢者向け公的医療保険)の拡充、②就学前教育の無償化、③気候変動対策――などの柱は盛り込める算段だとか。
しかし、当然ながら規模を縮小せざるを得ない項目もあり、3月に成立した1.9兆ドルの追加経済対策に含まれた子育て世帯向け税控除は当初、恒久化を目指したものの、2022年末までに短縮される見通し。そのほか、中低所得者層向けの住宅支援規模の縮小、子育て・介護支援のための有給休暇取得期間も当初の12週間から4週間へ短縮されるもようです。
進歩派議員連盟“コングレッショナル・プログレッシブ・コーカス(CPC)”のトップであるジャヤパル下院議員は、さぞ憤懣やるかたなしかと思いきや「我々にとっての最優先事項がいずれにしても盛り込まれた」と評価していました。プログレッシブが態度を大いに軟化させたため、シューマ―上院委員内総務も「全員が合意に達したため、週内に取りまとめたい」と発言していました。
チャート:成立すれば、バイデン大統領の支持率低下に歯止めを掛ける?仮に1.5兆ドルで成立しても、追加経済対策1.9兆ドル+インフラ計画1.2兆ドルと合わせ4.6兆ドルと、GDPの約2割に相当。2009年にオバマ政権で成立した景気刺激策(米国再生・再投資法、ARRA法)は7,870億ドル、GDP比5.5%と雲泥の差です。
筆者の注目は、国境炭素税をめぐる動きです。ちょうど、米中通商協議が10月8日に再開されたばかりで、追加関税が国境炭素税に入れ替わるのではとの筆者の妄想がさらに膨らみます。
サキ報道官は19日、年収40万ドル以下の米国人に増税しないとの公約を遵守した炭素税の策定が可能との認識を表明、導入への道を残します。しかし、石炭生産で全米第2位のウエストバージニア州選出のマンチン議員は「全く協議されていない」と、引き続き否定的です。
国境炭素税のほか、バイデン政権が2030年までに再生可能エネルギーの電力供給8割を掲げるなか、民主党下院エネルギー商業委員会が9月に可決した「再生可能エネルギー電力推進プログラム(Clean Energy Performance Program、CEPP) 」の動向も、注目です。規模は1,500億ドル。2023~30年にかけ①電力会社は再生可能エネルギーの供給を前年比4%引き上げ、②連邦政府は、前年の供給量を1.5%上回る再生可能エネルギー電力を供給した電力会社に、1メガワット時ごとに150ドルを支払う、③遵守しない電力会社には、1メガワット時当たり40ドルの罰金の支払いを求める――という内容です。
ホワイトハウスは、バイデン大統領がイタリアのローマで10月30~31日に開催される20ヵ国(G20)首脳会議と、英国はグラスゴーで11月1~2日に行われる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26 )首脳会合に出席すると発表しました。岸田首相やプーチン大統領はリモート参加し、習主席も対面での参加を見送ると想定されるなか、バイデン氏が気候変動対策でリードする上で、米国のコミットメントを強調したいはずです。だからこそ、外遊の手土産とすべく歳出案の規模縮小を提案し妥協を呼び掛けたのでしょう。バイデン氏の切なる願いを汲み取るのか、そのカギを握るのはやはりマンチン議員に他ならないんでしょうね。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年10月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。