ベネズエラの伝統の紙面もついに差し押さえられた

ベネズエラで78年の歴史を持つ伝統ある紙面もついに差し押さえられた。

 ベネズエラ最古の新聞エル・ナシオナルも閉鎖

「現在、ベネズエラの大学教授の給与は11.14ドル。20年前の2001年には2456.12ドルが支給されていた。准教授となると給与は5.65ドル。大学の教員の唯一5%だけが325ドル以上の給与をもらっていて生活に必要な食料を手に入れることができている」

10月21日付でこのニュースを報じたのは伝統ある地元紙「エル・ナシオナル(El Nacional)」が電子版にて報じたものだ。

同紙も独裁者マドゥロ大統領の報道規制によって閉鎖させられた。現在、ベネズエラ政権の手が及ばない外国から電子版にてベネズエラの現状を報じている。

独裁者マドゥロ大統領は今年5月14日、彼の政権に批判的なメディアの最後の牙城のひとつだった新聞社エル・ナシオナルを法的に差し押さえた。勿論、司法も政府の支配下にある。

最高裁が差し押さえの理由としたのは、マドゥロ政権のナンバーツーのディオスダド・カベーリョ議員がエル・ナシオナル紙を相手取って同紙が報じた内容を名誉棄損だとして訴えたことが起因だ。そして1300万ドルの慰謝料を請求。その支払い期限までにそれが満たされなかったとして最高裁は同紙の建物などを押収したというわけだ。

 エル・ナシオナル紙は政府の手が及ばない電子紙に移行

エル・ナシオナル紙は1943年に創業されたベネズエラの代表紙のひとつである。2018年に75周年を迎えた。これまでチャベス氏とマドゥロ氏からの重圧に耐えながら1100人を雇用していた紙面であった。

2018年4月14日が発刊紙として最後の新聞となった。それ以後は電子版だけに移行した。発刊紙を廃止せざるを得なくなったのは発刊に必要な紙が手に入らなくなったからだ。マドゥロ政権に批判的な新聞社にはそれが提供されないからである。

そこで、同紙はアルゼンチンのラ・ナシオナル紙、ブラジルのオ・グロボ紙、チリのエル・メルクーリオ紙からの協力を得て印刷に必要な紙の提供を受けていた。それで一時的には持ちこたえたが最終的に発刊を廃止せざるを得なくなった。

ベネズエラ政権の実質ナンバーワンはカベーリョ氏だ

同紙は今回の差し押さえは政治的な迫害であって、カベーリョ氏が同紙を手に入れて発行責任者になるというのは陰謀だとした。同紙のオーナーでスペインに亡命しているミゲル・エンリケ・オテロ氏はアルゼンチン電子紙「インフォバエ」とのインタビューの中で、今回の差し押さえというのはチャビスタ独裁者(マドゥロ等のこと)が新しく採用したやり方で、チャベス前大統領が使っていたやり方とは異なるものだと指摘した。

エル・ナシオナルの記者の多くはスペインに亡命

2019年3月8日付けでマイアミの電子紙「ボス・デ・アメリカ」がオテロ氏とインタビューした内容が掲載された。ベネズエラのメディアについて参考になるので彼が答えた内容の一部を以下に紹介したい。

それによると、最初に政治的そして経済的に危機が始まったのは2016年のことだと指摘している。彼がスペインに亡命したのはイスラエルに滞在していた時に帰国すると逮捕されるという情報が彼に伝えられて帰国するのを止めて最終的にスペインに亡命したということである。

また彼の新聞社に勤務していた記者の多くもスペインに亡命しているという。といことで、彼らがネット上に書いた記事がフィリピンで編集されて電子紙となっているのである。また同紙は公明正大を信条としている紙面だというのがオテロ氏によって明らかにされている。だからチャベス氏そしてマドゥロ氏のチャビズムにとっては目の上のたん瘤的な存在なのである。

「ベネズエラでは表現の自由は消滅した」「長期的にはキューバスタイルをまねることである。懲罰的立法でもってラジオとテレビを沈黙させたということだ」。と語った。

「その次に彼らは印刷紙に矛先を向けた。抑圧的なメカニズムを多く使った。しかし、最終的に彼らが望む結果をもたらしたのは(新聞にする)紙の供給を廃止したことである。そうなってからは新聞紙が発刊されることがなくなった」「すべてのメディアがネットに移った。そこで彼らは電話公社を使ってネットをブロックする手段を選んだ」といったことを述べた。

そして政府が邪魔するメカニズムを打破すべくネットを使って相当な努力をしたことを明らかにした。

「エル・ナシオナルのツイッター、ファイスブック、イースタグラムを見た時に、そこに書かれていることは本当だというのをだれもが知っている」と述べた。

そして同氏は「ベネズエラには1万5000社から2万社あった企業は現政権が潰して2000社から3000社が残っているだけだ。すべての生産システムを彼らは破壊した」と指摘した。

大手新聞だった「エル・ウニベルサル」と「ウルティマス・ノティシアス」は政府が買収したことも語った。オテロ氏の新聞にも政府からオファーがあったそうだ。

2004年から2020年までに200社以上の報道メディアが独裁政権によって姿を消している。それに抵抗すべく電子紙の活躍がこれからさらに期待されるところである。