点字は表音文字である。同姓同名でも漢字で書けば別人物と分かる場合もあるが、点字では同姓同名は識別できない。
毎日新聞が「読み方が同じ2候補、点字投票区別できず」と、島根1区の問題を取り上げた。これは、点字での投票を望む視覚障害者の参政権に影響する大きな問題である。
米国には、障害者政策の中枢機関として連邦アクセス委員会が設置されている。同委員会は、障害者による投票を促進するためにNIST(米国標準技術研究所)が作成中の勧告案に対して、注意を喚起する記事を公式サイトに掲載した。勧告案についてパブリックコメントを実施しているので、関係者は意見を出してほしいというものだ。
それでは、NISTの勧告案には何が書かれているのだろうか。
勧告案は61ページと長文で、投票権法(1965年)や有権者登録法(1993年)からスタートし、障害者による投票を阻む現状の壁を分析したうえで、これを改善するための膨大な勧告が列挙されている。
米国では、投票権を得るには有権者登録が必要で、有権者は投票所に出向く以外に郵便によっても投票できる。しかし、有権者登録や郵便投票には、障害者の参加を阻む壁がある。これを改善するようにオンライン化が進んでいるが課題は多いとして、まずは障害者による試験を実施するように勧告している。
投票システムと投票情報は、支援技術に通じ、投票経験が豊富な、さまざまな障害を持つ有権者、例えば、手の器用さに障害のある者、視覚障害者または弱視などによって試験される必要がある。この試験への参加を奨励するために、研究倫理指針に沿って報酬を与えてもよい。投票システムの試験はベンダーによる開発中に行うが、州政府が投票システムを認証するプロセスに試験を含めることもできる。
アクセシビリティに対応した投票機の利用を促進するための勧告もある。
初めて参加数有権者やリテラシーの低い有権者に、投票プロセスや投票オプションについて教育し、アクセシビリティに対応した投票機を使用した練習も行うこと。この教育は、交通至便な場所で実施するのがよい。
投票機等を開発する際には障害者が試験して必要な改善を施し、一方で、投票機の使い方などの教育機会を設ける、というようにして一歩一歩前に進むという米国は、障害者の参政権を保障するために適切で、参考になる。わが国もデジタル庁が発足して、「誰一人取り残さないデジタル社会」を目指しての活動がスタートした。この中で障害者の参政権をどう保障するかについても議論して欲しいものだ。