バイデン大統領は22日、漸くパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の再任を発表しました。これで、任期は2022年2月から2026年2月となります。
パウエル氏の再任発表を受け、米金利は荒い展開を迎えました。ハト派寄りのブレイナード氏がFRB議長に指名されず、米利上げ織り込み度が高まったためです。米2年債利回りは19日の0.52%から0.62%へ急伸、FF先物市場での利上げ織り込み度は、22年6月14~15日開催のFOMCでの利上げ織り込み度は76.6%と、指名直前の営業日にあたる19日の66.9%から急上昇しました。2022年末に至っては、3回の利上げを織り込みつつあります。
チャート:2022年6月FOMCでは、2回の利上げ観測も浮上中
チャート:2022年末までに、3回の利上げの織り込み度が30.8%と最高に
お陰で、日本が勤労感謝の日を迎えた23日、ドル円は2017年3月以来の115円台に乗せてきました。
確かに、パウエル氏はFRB理事だった頃、2015年12月開始の利上げサイクルではタカ派でした。ただし、現状は11月FOMCでシームレス利上げ、つまりテーパリング終了即利上げに慎重な見解を示していました。また、FRB議長に就任してからは、トランプ前政権での利下げ圧力に屈し”予防的利下げ”に踏み切った実績もあります。FRBは政府から独立した機関であるとはいえ、景気減速のリスクをはらむ利上げを行うことは想定しづらいのではないでしょうか。
9月FOMCのFF金利見通しが示すように、地区連銀総裁だけでなくウォラーFRB理事やボウマンFRB理事など、指導部の間でも利上げ支持派が増加中です。しかし、バイデン大統領が仮に積極的な利上げを望まないとすれば、ハト派のFRB理事を指名し、FOMC内におけるタカハト構成の均衡化を目指すのではないでしょうか?バイデン氏は少なくともFRB理事を2人、クラリダFRB副議長が任期切れとなる22年1月末で退任するならば、3人指名することができます。つまり、バイデン政権が指名する人物で、政権が望む金融政策運営が予想できるというわけです。
中間選挙を控える点にも、留意したい。2022年11月8日の中間選挙前に景気を冷やしてしまえば、上下院どちらか、あるいは両方を共和党に奪回されるリスクが高まります。バージニア州知事選で共和党候補が勝利したように,現状は支持率の低下と合わせ不利な情勢ですから、バイデン政権が積極的な利上げを望む可能性は低いでしょう。
何より、バイデン陣営はカーター政権の二の舞を回避したいはずです。当時、インフレ高進と景気悪化というスタグフレーションに見舞われ、再選を果たせませんでした。1979年8月にFRB議長に就任したボルカー氏がインフレに立ち向かうべく利上げを進めた影響を踏まえれば、いくらインフレ高進で支持率が低下中でも、積極的な利上げを望むとは想定しづらい。欧州連合(EU)との鉄鋼・アルミ追加関税緩和措置で合意した際のレモンド商務長官の声明やイエレン財務長官の発言を踏まえれば、バイデン政権は金融政策ではなく、政権自らの手でインフレを抑え込もうとする意図が見え隠れします。11月23日に日中韓印英と協調で行う戦略石油備蓄の放出も、その一環であるのは明らかです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年11月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。