みずほ首脳総退陣で思い出す私の体験記

交渉中に専務が胸の盗聴器を操作

みずほフィナンシャルグループ、みずほ銀行の首脳が総退陣します。日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行というトップクラスの大合併で、すごいメガバンクが誕生したものだと思っていましたら、度重なるシステム障害を起こし、金融庁から経営刷新を求められました。

「発足から20年、合併前の旧3行への帰属意識が強く、風通しの悪さは組織の病だった」(日経社説/27日)、「旧行間の対立を避けようとして、積極的に意見をいわない『ことなかれ主義』に陥っていた」(読売社説)。

合併して20年も旧行意識を引きずっている。日本企業の典型的な事例です。世界ランキングから日本企業がどんどん姿を消していく。カネ余りを背景に企業統合が加速しても、こんなことではメリットが生きてこない。

真実は細部に宿るともいいます。不良債権処理で、私が体験したみずほ銀行との交渉をまざまざと思い出します。あれから何も変わっていない。

何年前でしたか、私が勤めていた会社で、子会社が多額の不良債権を抱え、経営破綻処理(倒産)することになりました。取引銀行は三井住友とみずほです。三井住友は子会社の決裁口座を握っていた強みで、破綻処理をしても、債権(融資)は全額回収できる計算が成り立っていました。

焦ったのは、みずほです。無傷の三井住友に対し、何億円かが回収不能になり、損失が発生することになりました。そのことを知って怒りまくったみずほは、会社の担当者に波状攻撃をかけてきました。「まるでサラ金業者の取り立てのようだった」とは、実務レベルの担当者の感想です。

実務レベルでは決着がつきそうになく、責任者レベルの交渉を持つことになりました。その際、「私の責任で決着をつけますから、みずほ側も経営責任を持っている役員がお一人で交渉に来てください」と、申し上げました。

みずほは3行合併で、同一案件に複数の担当者がおり、結論をその場で出せないという悪弊を聞いていたからです。ですから「責任者がお一人で」と頼んでいたのに、会社に来られたのは、事前の断りもなく二人でした。

名刺を見ると、二人とも専務さんです。一人は富士銀行出身、もう一人は興銀出身でした。専務が事務方を一人、連れてくるのならともかく、「専務が二人」とは驚きました。

相互に監視し合うためだったのでしょう。「あいつは妙な譲歩をするのではないか」と、けん制するのです。みずほの規模からすると、巨額とは言えない規模の債権処理に専務が二人もくるとは、人材の重複です。

しかも、交渉を始める直前、一人の専務さんの挙動が気になりました。背広のポケットのペンを暫く探っていました。じっと見つめていると、ボタンを押すらしい仕草をしました。そうかペンに仕込んだ盗聴器か。

交渉では「三井住友は決裁口座を抑えているのに、みずほは担保は何もとっていませんね。全額、回収不能になっても、法的には私どもの側に、なんらの瑕疵も生じないのです」と、申し上げました。

すると一人が「おたくの最高トップに、うちの最高トップが談判に上がる用意がある」と。こうなると、またもサラ金まがいの脅しです。「どうぞご自由に」と、言いかけて止めました。

この案件は、ゼロ回答も失礼だと思い、若干の債権の回収には応じました。みずほのシステム障害に際し、「藤原頭取は2月の障害時、トラブルをネットニュースで知った」そうですから、あきれます。

巨大企業になればなるほど、トップは独裁的存在でないと務まりません。フィナンシャルグループのトップは会長(佐藤氏、興銀)、次は社長(坂井氏、興銀)、みずほ銀のトップは頭取(藤原氏、第一勧銀)という「会長、社長、頭取」という呼称も紛らわしい。屋上屋です。

次期頭取は加藤勝彦氏で富士銀行出身です。3行でトップを分け合うという構図は弊害を生みます。これを奇禍として、フィナンシャルグループのトップは部外者を招いたほうがよい。

それと社員名簿をなくし、「誰それが何年に、何銀行に入ったか」など皆が意識しないようにする。銀行閥、学閥、年齢などにこだわらず、人物本位で人材を登用する。外国人も起用する。そこまで踏み込んでほしい。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。