国境措置の強化はコロナ騒動を長引かせるだけだ

前田 陽次郎

日本では新型コロナの感染者が少なくなり、国内では「今こそコロナ対策をやめて社会を正常化させよう」という意見も強くなってきた。ところが国境措置に関してだけは、「海外からの流入は防がないといけない」という意見が圧倒的多数派であるように感じる。

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私は日本および諸外国での国境措置について繰り返し「アゴラ」に寄稿してきたが、国境措置に対して継続的に情報を発信している媒体は、他にはほぼ無いのが現状である。

日本入国時の隔離は当分なくならない

南アフリカで発生した「オミクロン株」に対し、世界中で国境措置の強化を行う動きがあるが、日本に関していえば特に対策を立てる必要はないと私は考える。

感染状況が落ち着いている今の日本で、新たな変異株の流入を防ぎたいという根拠は、前衆議院議員の青山まさはる氏のtweetで簡潔に説明される。

 

 

「折角の平穏が奪われる」。この言葉が今の日本人の気持ちを端的に表している。

しかし、この平穏は永遠に続くのだろうか。台湾やオーストラリア、ニュージーランドの状況を見ても、永遠に続くことはあり得ない。上記「国境封鎖国」の住民の意見は「国境を封鎖していれば国内では普通の生活ができるから、国境封鎖を続けて欲しい」というものであった。しかし国境措置はいつかは破られるのだ。

このことに対する考え方も、青山氏のtweetを引用して説明する。

 

 

私は今の感染が落ち着いているタイミングで変異株が入ってきたほうがいいと考える。その方が対策も立てやすい。「後者の覚悟は世界中で未だに出来ていない」というのは事実であるが、ここまで感染が落ち着いている日本だから逆に世界の先頭を切って方針転換をするタイミングにある。

もっとも、日本が「世界の先頭を切る」というのは、世界の状況を見てしか動けない日本の現状を鑑みると、あり得ない話だとは思うが。

水際対策が失敗する、という意見は、藤原かずえ氏もtweetしている。

 

 

ここで言われている通り、今は予防より医療提供対策が求められているのだ。

日本のコロナ対策も、感染者数よりも医療提供体制を重視するように方針転換すると発表された。私は実際に次の波が起これば感染者数で大騒ぎすることになるのは間違いないと思うが、基本的には医療体制に負荷がかかるかどうかを指標にするべきである。

今の日本のコロナ対策を根本的に見直すためには(たとえば感染症5類相当への格下げ等)、次の波を問題なく切り抜けたという実績が必要だと私は考える。となれば、騒動を早く終息させるには、次の波は早く来た方がいいのだ。

国境規制も、感染した入国者がどれだけ医療に負担を与えるのかという視点から行う必要がある。日本では11月26日から1日の入国者数を5000人にする、という方針になったが、5000人の入国でどれだけの感染者流入リスクがあるのかという分析は、まったくされていない。あくまで今の検査体制で対応できる人数が5000人、ということだ。

日本への入国者数 上限5000人程度に引き上げ 今月26日から(NHKニュース)

これについて松野官房長官は、午前の記者会見で「検疫体制の整備や防疫措置の実施状況などを踏まえて見直す」と述べ、今月26日から一日当たりの上限を5000人程度に引き上げると発表しました。

しかし今ほんとうに求められているのは、1日何人の感染者入国に日本の医療体制が耐えられるか、という視点である。日本の検疫体制は現在「感染者入国ゼロ」を基本にしているのだ。この方針を転換させる必要がある。いま日本への入国に際しては、飛行機搭乗前と入国時の2回検査が求められている。この2回ですり抜ける感染者が1日何人いるのか、という考え方が重要なのだ。

この数を把握するためには、たとえばオリンピック関係者の陽性者が何人いたのかを指標にすることができる。入国後継続的に検査をした事例はオリンピック関係者以外にはない。通常の入国者は、待機期間に発症しなければ仮に感染していてもわからないのだ。そしてオリンピック関係の入国者は何人のうち何人陽性になったか、というデータをもとに入国可能な人数を設定できる。

実際の数値として、オリンピック関係者での感染報告は453例であった。

東京オリンピック競技大会に関連した新型コロナウイルス感染症発生状況(速報)

正直、1日453例の感染報告があっても、今の日本の医療体制では全く問題がない。この程度の感染者を入国させても、医療的には問題ないのだ。

7月の外国人入国者数は5万9500人、8月は3万5000人であった。この数字をオリンピック関係入国者の分母にするのは適当ではないが、ざっと見積もっても1日5万人〜8万人の入国があっても、今の検査体制ですり抜ける感染者は500人程度。この人数を許容できるかどうかということが、1日の入国者数制限の基準になるべきだ。

待機期間が妥当かどうかの判断も、実例をもとに決めるべきだ。従来は14日の待機期間中に発症しなければPCR検査を受けることなく待機免除になっていた。しかし今はワクチン接種者であれば10日目に検査を受けることにより待機免除ができる、という制度ができた。これを利用すれば、入国時の検査をすり抜けても後日陽性になるワクチン接種者の割合がわかる。待機期間にどれだけの意味があるのかについても分析できるのだ。

私は日本が入国時のゼロコロナ方針を捨てれば、ワクチン接種にかかわらずPCR検査の陰性証明だけを条件に待機期間なしで入国を認めるようにしても、国内の医療体制に重大な問題を起こすことはないと考えるので、こうした考え方を広く国民に周知させるべきだと主張する。以前「アゴラ」で指摘した通り「ゼロコロナ政策」の見直し以外に日本での国境措置の緩和はできないと思う。

日本で更なる入国緩和策が取られるのか?

そうなれば、入国規制を緩めるためにはワクチン接種を条件にすることはできない。入国規制を緩めるには、前回の記事に書いた通り「ゼロコロナ政策」を見直すしかないのだ。