なぜメキシコ政府はリチウム開発を国営化しようとするのか

メキシコ政府はリチウムの開発を国営化しようとしいている。

憲法を改正してリチウムの開発を国営化

メキシコの独立性を強めたいとしているアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領(アムロ)はメキシコが埋蔵するリチウムの開発を国営化することを画策している。その為にはまず憲法の改正が必要になって来る。即ち、リチウムを国家の独占所有物とする法案だ。その為のイニシアティブは彼の政党「国民再生運動(Morena)」によって取られ、その改正案は既に議会に提出されている。

仮にこの法案が議会で承認されるようになると、メキシコのリチウムの外国資本による開発は容易ではなくなる可能性がある。メキシコの石油公社ペメクス(Pemex)と同じようなリチウム開発公社リティオメックス(Litiomex)を創設したいとしている。そして、メキシコは国家戦略としてこれから需要が高まるリチウムを国が独自に開発して行くことを望んでいるのだ。(4月19日付「プント・ポル・プント」から引用)。

というのも、現状ではメキシコに進出している外国のリチウム開発企業が支払う税金と開発譲渡権の歳入しかメキシコ政府には入らないことになる。それは政府の全歳入の1%にも満たない額である。自国で独自に開発して行けば国家の歳入は大幅に増える。

何しろ、メキシコには2億4300万トンのリチウムが埋蔵されていることが2019年に明らかにされたからだ。その量は世界で最大規模である。(10月11日付「APニュース」から引用)。

現在外国企業に35件のリチウム開発権が譲渡されている

現在、メキシコでは9万7400ヘクタールの面積がリチウムの開発で外国企業に譲渡されている。更に、52万7000ヘクタールが開発の対象になっている。が、大統領のアムロ氏は、彼の大統領就任中は開発権を外国企業に譲渡する意向の無いことを事ある度に表明している。これまでの開発権の譲渡は前任者2人の大統領フェリペ・カルデロン氏とエンリケ・ペーニャ・ニエト氏によって実施されたものだ。

この2人の大統領によって開発が譲渡されているのは以下の企業である。

  • カナダの企業オルガニマックス(Organimax)に5件の開発権が譲渡されている。その開発面積は2万1905ヘクタール。更に、同社は30万3351ヘクタールの開発権の譲渡を申請している。
  • 英国のバカノラ・リチウム(Bacanora Lithium)はメキシコで16件の開発権を所有し、その面積は1万5062ヘクタール。更に現在8万7087ヘクタールの開発権の申請中。
  • カナダのワン・ワールド・リチウム(One World Lithium)は3件の開発権を持ち、その面積は7万3547ヘクタール。
  • カナダのラディウス・ゴールド(Radius Gold)も3件の開発権を有し、その面積は2万9769ヘクタール。
  • オーストラリアのインフィニティ・リチウム(Infinite Lithium)は2件の開発権を所有し、その面積は2万920ヘクタール。
  • カナダのロック・テック・リチウム(Rock Tech Lithium)は1万1784ヘクタールに1件の開発権を所有。
  • 英国のアリエン・メタルズ(Alien Metals)は1502ヘクタールに5件の開発権の取得。

以上の35の開発権が外国企業に譲渡されている。それに加え、メキシコからはリティオ・メックス(Litio Mex)が1件の開発権を取得している。(前述の「プント・ポル・プント」から引用)。

尚、どの企業もまだリチウムの採掘には至っていないが、一番先行しているのはソノラ州で開発を進めている英国のバカノラ・リチウム社で、350万トンのリチウムが埋蔵されているとされている中から2023年には1万7500トンのリチウムを産出する予定になっている。同社は50年間の開発権を所有しているが、これから3世紀先まで留まって開発を継続する意向だ、ということを同社のCEOピーター・セッカー氏が「エル・パイス」の取材に答えたそうだ。

高騰を続けるリチウムの価格

2014年から2018年の間にリチウムの価格は150%増加している。トンあたり6690円であったのが1万7000ドルまでに上昇している。

例えば、テスラは日毎に3000個のバッテリーを生産しているが、その一つ一つに13キロのリチウムが必要とされている。フィナンシャル・タイムズによると、同社は年間で2万4000トンのリチウムが必要とされているそうだ。テスラにとっても、隣国のメキシコがリチウムの最大の埋蔵量を有しているというのは非常に関心の高いところである。