津軽海峡はNHKが報じる「国際海峡」ではない

潮 匡人

たとえば海上保安庁の公式サイトにも、「国際航行に使用されるいわゆる国際海峡である 宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡西・東水道、大隅海峡 の五海峡」と記載されている。

津軽海峡 出典:Wikipediaより

だからなのかNHK以下、主要メディアは上記5海峡を「国際海峡」と称してはばからない。「中国軍とロシア軍の艦艇10隻 津軽海峡を同時通過 初確認」を報じた2021年10月19日のNHKニュースは、こう述べた。

防衛省によりますと、中国海軍とロシア海軍の艦艇が津軽海峡を同時に通過するのが確認されたのは、これが初めてです。/津軽海峡は「国際海峡」のため、軍艦を含めて外国の船舶の航行が国際的に認められています。(NHK公式サイトより)

その後、中国軍とロシア軍の艦艇は津軽海峡に続き、鹿児島県の大隅海峡を初めて同時に通過した。そう報道した10月24日のNHKニュースでも、こう述べた。

大隅海峡は津軽海峡と同じく「国際海峡」で、軍艦を含めて外国の船舶の航行が国際的に認められています。(NHK公式サイトより)

正しくは、津軽海峡も大隅海峡も「領海及び接続水域に関する法律」が定める「特定海域」であり、国連海洋法条約37条が規定する「国際海峡」ではない。「国際海峡」のため、軍艦を含めて外国の船舶の航行が国際的に認められているのではなく、中央部分は国際法上「公海」のため、中露軍の艦隊が通航しても国際法上の問題は生じない、のである。

中国海軍艦艇(右側)及びロシア海軍艦艇(左側)
出典:防衛省統合幕僚監部より

あえて無料のネット情報を借りよう。

「国際海峡(中略)とは、国連海洋法条約によって定義された国際航行を定められた範囲で自由に行える海峡のことである」(Wikipedia)。

「国連海洋法条約 37条により(中略)国際航行に使用されている海峡。 国際海峡では,通常の領海で認められる無害通航権よりも沿岸国の管轄権の行使が制限される通過通航権が,軍艦を含むすべての船舶および航空機に認められる」(コトバンク)。

もし、NHKが報じたとおり「国際海峡」なら、国連海洋法条約が規定する「通過通航権」が、中露艦隊および艦載機にも発生してしまう。そうなると、中国軍機やロシア軍機による、日本領土ギリギリ波打ち際における上空飛行や、中ロの核搭載原潜よる潜没航行も自由となる。日本の安全保障上、看過できない。だから、あえて中央に公海部分を残して、「国際海峡」となる事態を回避した。

加えて、日本政府が(1977年成立の)上記領海法で、領海の幅を、上記5海峡で3カイリ(約5・6キロ)に制限した背景には、核を搭載した米原潜の(国際法上、公海でなら許される)自由な通航を求めた米側の圧力があった。

日本政府としても、「核をつくらず、持たず、持ち込ませず」の非核三原則と抵触しないよう、津軽海峡の中央部分に公海を残し、米原潜に公海上を通航させ、非核三原則(の建前)を維持しようとした。1960年の安保改定に際して、日本への核持ち込みを容認する密約を交わしたとことが、米側の要求を受け入れざるを得なかった理由でもある。いずれにせよ、保守陣営による「領海を広げて国際海峡を塞げ」云々の主張は、まるで当を得ない。

以前、Wikipediaの定義を援用してバカ呼ばわりされたが、受信料を強制徴収する公共放送より、よほど正確ではないか。いちおう国際法の教科書も援用しておこう。

津軽海峡等は「通過通航権」の認められる「国際海峡」ではなく、ただの海峡ということになる。(中略)外国軍用機や外国潜水艦が沿岸すれすれを「通過通航」するようなことはありえない。(中略)この日本の対処は賢明で合理的といえよう(高野雄一『国際法』弘文堂)

蛇足ながら、日本を代表する青年コミック誌「ビッグコミック」(小学館)の読者なら、以上は先刻ご承知。10月20日に生放送されたニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」のやり取り(を再現したネット記事)を借りよう。

飯田:一昨日、津軽海峡をロシアと中国の艦艇が10隻あまり通りました。これが、潮さんが協力されている『空母いぶきGREAT GAME』というコミックの内容と近い状況になっています。シナリオとして、こういうことも想定されていたのですか?

潮:そうですね。見事に未来予測を当てたとも思いますが、漫画よりも現実が先行するような形で、嬉しいような、困ったような気持ちです。実は海峡の中央部分は公海が残っているわけです。(以下略)

前回アゴラで、フジテレビの度重なる「平和安全法制」大誤報を指摘したが、なんの反応もない。「国際海峡」問題についても繰り返し指摘してきたが、なんの反応もない。

どうせ、また頬かむりを決め込むのだろう。いくらアゴラに書き、ラジオで話し、超人気コミック作品で描いても、悲しいかな、公共放送を含むテレビの力にはかなわない。