社会参加について②:寄付金が生み出す福祉社会

日本人はケチです。これは客観的に見て間違っていないと思います。どうケチか、といえば自己満足主義で自分には割とお金を使いますが、利他の心が薄いのです。利他の心といえば稲盛和夫氏が有名ですが、経営的思想の一つでビジネススタンスの問題です。いざ、マネーとなると「おごる」という発想がありますが、それは知人友人に対してであり、知らない人に「身銭を切る」人は少ないのです。相続で身内の破綻が起きるほどお金には狡いのです。

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年末となると歳末助け合い募金を思い出します。この共同募金、昭和22年に始まったのですが初年度の募金総額は5億9000万円でした。そこから順調に伸びて1995年にピークの179億円をつけます。その後、募金は低下の一方で2019年末の歳末募金は128億円となっており、下げ止まる気配はありません。

日本の寄付金は日本ファンドレイジング協会が数年おきに統計を発表しています。2021年度版は12月17日発売でその前号は2017年版になります。その際発表された各種個人寄付金総額が7756億円(2016年時点)とされます。多いのか少ないのか、といえば少ない、と申し上げます。アメリカが31兆円で国民一人当たり9万円の寄付金、英国が1.5兆円(同22000円)、韓国でさえ6700億円(同13000円)となっています。日本は国民一人当たり6500円です。つまり韓国人のちょうど半分、アメリカ人の14分の1です。

日本人の寄付金といえば最近の流れはふるさと納税とクラウドファンディングが寄付効果の高いプログラムとして名が知られています。しかし、ふるさと納税は「納税」と名がついていますが、別に税金を払うわけではなく、自分が希望する自治体に寄付をして、その見返りにギフトをもらうという仕組みです。税額控除があるじゃないか、という意見もあると思いますが、国が認知する正式な寄付行為はどれでも税額控除はできます。

クラウドファンディングも背景はその商品やサービスが完成後に安く手に入るという「株主特権」を期待したものも多く、純粋な意味での寄付とは言い切れません。

ちなみに2020年度のふるさと納税額は6724億円です。クラウドファンディングは1842億円(矢野経済研究所、2020年)となっています。上記の2016年の統計とは比べられませんが、見返りが大きなドライビングフォースになっていることがお分かりいただけるかと思います。

寄付とは基本的には何の見返りも期待せず、「頑張ってね」「支援します」という意識の中でお金を出すのが基本です。その中には政治団体への寄付も入り、概ねどの国でも税額控除が出来るはずです。

私も多額ではないですが、コンスタントにあちらこちらお金は出しています。個人選挙権はないけれどカナダの政党関係にも寄付はちょこちょこしています。

コロナでイベントが少なくなっていますが、北米では秋から冬にかけてファンドレイジングパーティーが各方面で開催され、会場でオークションもしばしば見受けられます。企業などが提供した商品やサービスにサイレントオークションと称して商品の前においてある紙に自分の入札額を書き入れていくのです。

パーティーの終わりにオークションの入札が締め切られ、最も高い金額を入れた人が落札します。この傾向は例えば価格が1万円とわかっている商品でも2万円とか3万円といった値が付くのです。商品そのものは企業からの寄付、つまり仕入れ無料で入札者が2-3万円で落札するのでその総額がイベントオーガナイザーに入る仕組みです。但し、オークションは政府の認可を受けた団体のみ許可されています。

では集めたお金は何処に行くのか、といえば当該団体の運営費もあるのですが、それを別の形でほかの団体や必要とされるところに資金を回すこともあります。つまり、NPOが行う寄付金集めで更にお金を必要とする別のNPOや団体に行くのです。お金は回る、と言いますが、この北米の寄付金の周り具合はすさまじいトリクルダウン効果があるともいえるのです。

私が支援するシニア向けのNPOは3年目になりますが、様々な寄付、英語でいうGrant(助成金)を頂いています。多分、この3年で5つぐらい。今、6つ目の申請をしています。規模はそれぞれ違いますが、10万円程度から500万円ぐらいまで様々です。それらのGrantは団体の方針に合致すれば割ととれる確率が高く、支援側も全体予算額が提示してあり、申し込み順に審査が行われ、支援金の予算を使い果たしたら終わり、という具合になっています。

私が思うのはこの頂いている支援金の使い方です。闇雲な使い方をする団体も見受けられ、支援のありがたみが薄れていると思う時もありますが、概ね、皆さん、まじめにありがたく活用している傾向が見て取れます。

日本は支援と言えば政府が国家予算(=税金)を使った取り組みが多いと思います。北米は確かに個人収入や個人資産は日本より多いかもしれませんが、結構な額が社会還元されているという事実もまた理解すべきかと思います。寄付や福祉は宗教的背景があることも否定できません。仏教にも慈悲の心があるのですが、さて神道にはあったかどうか定かではありません。

寄付一つとっても奥深いものです。福祉社会とか日本型社会主義を目指すとは言いますが、世知辛さも感じないわけではありません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月9日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。