日本の優等生がIT起業せず、医者を目指す理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

最初にお断りしておく。本稿は統計データなどによらない、門外漢である個人の独断と偏見を記したものだ。だが、世間的に言われている「日本から巨大ITテックが出ない」「優秀な人は医者を目指す」と言われている話に対して、新たな視点の提供の1つになればと思っている。

BrianAJackson/iStock

最初に結論をいえば日本の優等生が医者ばかりである理由は、「親の教育」「日本に天才を育てる土壌がない」という2つである。詳しく取り上げたい。

【参考・過去記事】
日本からはGAFAが生まれずGAFAの消費者にしかなれない理由

ITテック日米の差

まずは日米を比較し、どのくらいITの分野において差があるのかを俯瞰したい。その際の指標として主要ITテック企業の時価総額を用いる。

ソニーグループ(株)  17兆3,398億円
ソフトバンクグループ(株) 9兆5,141億円
任天堂(株) 6兆9,233億円

日本(Yahooファイナンス 最終更新日時:2021年12月14日18時40分より)

ざっと時価総額の大きなところを恣意的に取り上げた。一方、米国はどうだろうか?

アップル 325兆円(2兆8,601億ドル)
マイクロソフト 280兆円(2兆4,651億ドル)
アマゾン・ドット・コム 195兆円(1兆7,150億ドル)

米国(Yahooファイナンス 最終更新日時:2021年12月15日7時40分より)1ドル113.75 円で計算

文字通り「ケタが違う」規模である。

米国のわずか数社のIT企業が、日本の国家GDPを超える規模に膨れ上がっている計算だ。日米のITのテックは比較にならない差が生まれている。この背景には米国IT分野における、旺盛な起業家精神が背景にあるのだろう。

親が子供を医者にする

さて、IT業界の日米差を俯瞰したところで、ここから日本の優等生が医者を目指す理由を考えていきたい。尚、昨今は優等生も大学は海外へ留学してITを学んだり、大学を出て起業する人も出てくる変化の兆しもあるとされるが、本稿ではあくまで筆者世代の状況を個人の肌感覚レベルで示すものである点を付け加えておく。

先日、実家の親から義務教育時代の卒業文集を受け取った。もうとっくに捨ててしまったと思っていたので、この発掘には驚き、懐かしく見返していた。そして「そういえば、この人は今何をやっているのか?」と気になった優等生の名前をいくつかぐぐってみた。そうすると判をついたように、彼ら全員が医者になっていた。中には医者ではない者もいたが、難関校を出て東京大学で博士号まで取得し、現在は国の医学分野の研究者になった「絵に描いたようなエリート」もいた。やはり学生時代から優秀な子はわかりやすくエリートになるのだと思わされる。優等生の中からは、「起業してIT分野の社長をやっています」というものは誰一人出てこなかった。

卒業文集を見ながら思い出したのだが、昔、中学生の時に優等生だったM氏に「将来、どんな仕事やりたい?」と興味本位で聞いてみたことがある。その際「医者」と即答されて「中学生なのに、もう進路が決まっているのか!?」と驚いた記憶がある。その理由を尋ねると「親がなれというから」と返ってきた。そしてM氏の名前で検索すると、やはり医者になっていた。

また、筆者には国立大で工学博士になった父を持つ同い年の親戚がいるのだが、彼も父親と同じ大学を出て医学分野の博士号を取得している。彼も進路の理由は「親がなれというから」である。

天才に蓋をする日本

また、天才に対する処遇が日米で大きく異なる点もこの違いに寄与するだろう。そんな象徴的な事件が過去にあった。

2016年、17歳少年が佐賀県立高校の校内サーバーや、県教委の教育情報システムにハッキングをして個人情報を抜き取って逮捕された。Twitter上では「優秀な能力の持ち主」「率先して能力を買い取るべき」という声があがっていたが、実際のところ、その後この少年が手腕を買われたという話を聞かない。

同じ時期、米国では「Hack the Pentagon(国防総省をハックせよ)」というコンテストを開き、米国防総省をハッキングした高校生を表彰、このハッキングコンテストの結果としてネットワーク上の脆弱性などを発見するに至ったという。日本とは対象的な対応だろう。

また、米国内での話ではないが、オーストラリアにおいて「雇ってほしい」と考えて、アップルのメインフレームをハッキングした10代の少年は有罪判決を記録されず、「彼は情報通信の分野で才能を持っている」と判断された事件があった。本来は犯罪に抵触する行為でも、その人物の意図に深い悪意がなく、高い能力を殺してしまう選択をしなかった寛大な判断に感じられる。

思うに日本は、優れた才能を発揮する土壌がないように感じる。イノベーションを破壊してしまうような、強すぎる法規制などはその一つだ。特にIT分野においては、才能の拡張性が極めて大きいため、それを受け止める土壌がなければ手腕を発揮しようという意欲を持った人物が現れにくいのではないだろうか。

優等生の持つ卓越した頭脳をどの分野に活かすか?ということについて言えば、日本では医者が強力な受け皿となっている。医者には、国内最高クラスの社会的地位と高収入は確約されている。その一方で、IT分野についてはたとえ優秀な能力があっても、それを存分に発揮し育てる土壌がない。以上が日本の優等生からIT起業家ではなく、医者が生まれると考える論拠である。

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