岸田首相の「新しい資本主義」で思う断片的な見聞記

日本は世界を見ようとしない国

岸田首相は国会における所信表明演説で、「成長も分配も実現する『新しい資本主義』を具体化する。世界、そして時代が直面する挑戦を先導していきます」と、強調しました。

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ぜひそうして頂きたい。それで、私が見聞する「新しい資本主義」の現状について、身近なところで拾った断片的な見聞記を書いてみました。

先日、私は就寝前にスマホを開き、アマゾンのホームページを覗いてみました。気に入った商品をみつけ、「注文」をクリックすると、翌日には配送される便利さにすっかり引き付けられているからです。

好みのスポーツシャツが目に入り、正札は4500円でした。実商店の半値に近い。夜の11時なのに、「翌日配送」との表示です。「本当かな」と思いながら、注文を確定すると、本当に翌日夜10時に配送されました。

街角のあちこちで、配送の小型トラックを見かけます。低賃金で雇ってもらっているのでしょう。便利さの代償が深夜作業と低賃金労働です。忘年会で知人にその話をすると、恐ろしいほどの賃金格差が存在するとの意見で一致しました。

知人の息子さんは、日本の大手広告会社の経験を生かし、世界的IT企業のグーグルの日本法人に転職しました。「なんと年収が一気に倍になった」そうです。それで驚いていてはいけません。息子さんの夫人はアマゾンに働いており、「年収は息子さんを上回る」というのです。

日本でも最高年収の所得層に入るでしょう。彼らの高年収を支えているのが低賃金の長時間労働者です。新しい職業的スキルを身に着けていかないと、その世界から脱出できない。

日本からも、グーグルやアマゾンに匹敵し、世界に飛躍できる企業、産業が育っていく必要もあります。そうした企業はほとんど見当たりません。

安倍元首相が15日、バラマキ財政を批判した矢野財務次官を意識した発言をしました。「日本がタイタニック号だったら、タイタニック号が出す国債を買う人はいない。タイタニック号でないから、ちゃんと売れている」。

世界の動き見ていないと、こういう発言になります。米国中央銀行(FRB)は15日、金融緩和政策を縮小を加速し、来年には3回の政策金利の引き上げをする流れになりました。

日銀は「消費者物価2%上昇まで異次元金融緩和を続ける」(黒田総裁)です。 日銀は17日、「コロナ対応の縮小を決定、大規模緩和は維持」という方針を決めたものの、どこかおどおどした表現です。

米国債の金利が上がれば、どうなるのでしょうか。日本国債(金利ゼロ)を保有している海外投資家(約7%)は、日本国債を売り、米国債を買うでしょう。日本の投資家も米国債に向かうかもしれません。

コロナ後の景気情勢、インフレ懸念を意識して、欧州も金融政策の転換に向かい始めました。英国は16日、政策金利を0.25%に引き上げました。欧州中央銀行(ECB)も量的緩和政策の打ち切りを決めました。

日本が欧米の動きに本格的に追随しなければ、円安を招き、輸入物価が上がる。予期しなかったプロセスであっても、「物価2%上昇」が達成されれば、いよいよ異次元緩和の転換に向かわざるを得ません。日銀が大量の国債購入を縮小していけば、大規模な財政出動も規模の縮小に迫られます。

日本は世界に連動しており、単独に存在しているのではない。「国債はちゃんと売れている」は、世界を見ていない短絡した発言です。

岸田政権は35兆円もの補正予算(3度目)を組み、21年度の予算総額は175兆円という空前の規模になりました。22年度当初予算も107兆円(4年連続で100兆円突破)の見込みです。

国債発行残高は約1000兆円ですから、将来金利が1%上がれば、利払い費は最終的に10兆円(年間)増える。2%なら20兆円増える。ゼロ金利に甘えていたバラマキ財政が壁にぶつかり、目覚める時がきます。

桁外れの金融財政政策に頼り切っているうちに、産業界、企業も挑戦的な精神を失ってしまいました。「新しい資本主義」を目指すならば、そのことを噛みしめて考えるべきなのです。

「財政の健全化」という表現は正確ではありません。「新しい資本主義」にとっては、株価の下落などを恐れず、「金融財政政策に頼らない経済を確立していく」というべきなのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。