気候変動より人権? 米国のウイグル人強制労働防止法

米下院は現地時間14日、ウイグル人の奴隷労働による中国からの輸入を禁止する法案「ウイグル人強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act)」を可決した。ホワイトハウスのサキ報道官は同日、次のように声明しこの法案に議会が合意したことを歓迎した。以下は拙訳。

米下院本会議場 Wikipediaより

大統領は、超党派の「ウイグル人強制労働防止法」に関する議会による合意を歓迎する。我々は、中華人民共和国の大量虐殺と人権侵害に対する責任を追及し、新疆ウイグル自治区における強制労働に対処するために、行動を起こすことができ、また起こさなければならないことに議会と同意している。

共和党上院マルコ・ルビオ議員と民主党上院ジェフ・マークレー議員がスポンサーのこの法案は、7月に上院を通過したが、下院では停滞したままだった。ルビオは12月初旬、この法案を「国防権限法」の修正案として挿入し、下院での採決を強行しようと試みた。

民主党の上院指導部はこの動きを阻止したが、これによりこの法案の注目度が上がったことで、元の法案を提出して投票にかけるようペロシ下院議長への圧力が高まった。その結果、法案は先週、下院を圧倒的賛成で通過し、両院は最終承認のためにバイデンに送る妥協案について交渉した結果、14日に合意した(以上、14日のワシントン・フリー・ビーコン:WFB記事)。

民主党の下院議長ナンシー・ペロシは14日、民主党が多数を占める下院で5ヵ月間も店晒しにしたことには頬被りし、まるで民主党下院の成果でもあるかのように、こう勇ましく声明した

中国政府がウイグル人やその他のイスラム系少数民族に対して現在行っている大量虐殺は、全世界の良心に対する挑戦であり、国際社会による強力かつ緊急な行動を必要としている。先週、民主党下院はマクガバン議長の「ウイグル人強制労働防止法」を可決し、中国共産党の強制労働の搾取に対する責任を追及し、この恐ろしい慣行に終止符を打つための強力な一歩を踏み出した。

議会は超党派かつ二院制で、中国共産党の新疆と地域における人権侵害を非難し、それに立ち向かい、その責任を追及し続けるだろう。もし米国が商業的利益を理由に中国の人権に声を上げないなら、世界のどの場所でも人権に声を上げる道徳的権威を失うことになる。

マルコ・ルビオは自身のサイトで14日、この法案が新疆ウイグル自治区に住むウイグル人らの「奴隷労働によって作られた商品が米国市場に出回らないようにするものである」とし、「米国は中国に依存するあまり、我々の服やソーラーパネルなどを作っている奴隷労働に目を瞑ってきた」と述べた。

彼は「だが今日からそれが変わる。我々のウイグル人強制労働防止法は、米国に商品を輸入する企業に対し、そのサプライチェーンが奴隷労働に汚染されていないことを証明するよう求めるものである。中国への経済的依存を終わらせる時が来た」と付け加えた。

中国に関する米国議会執行委員会の議長で上院外交委員会委員も務める共同提案者マークレーも、「中国政府がジェノサイドを糊塗(whitewash)し、来る北京五輪でプロパガンダの勝利を主張しようとしている今、我々が声を上げ、行動を起こすことがこれまで以上に重要だ」と唱和する。

前掲の保守紙WFBは「ケリーの反対を押し切って、ウイグル人排斥法案を下院で可決」との見出しを付け、「気候特使のジョン・ケリーと国務副長官のウェンディ・シャーマンは、この法案が政権の対中気候交渉を弱体化させるとの懸念から、引き延ばしに動いたと伝えられていた」と書いている。

7月4日の日経は、ソーラーパネル用のシリコンは「半導体に使うシリコンほど高い純度は必要なく、その生産は世界シェア約8割の中国に集中してきた。その約半分が新疆地区でつくられている」と報じている。

今回の法律の対象が、中国の「世界シェア約8割」の全てなのか、それとも「新疆地区でつくられている」「その約半分」だけなのか、はたまた北京に誤魔化されずに前者と後者の区別がつけられるのか等々、不明な点も少なくない。が、約4割であっても北京と気候皇帝ケリーには打撃だろう。気候変動より人権が重要だ。

それに引き換え、日本版マグニツキー法の制定はおろか北京五輪の外交ボイコットさえ未だに決められない岸田内閣の対中政策の弱腰は眼を覆うばかりだ。このところの安倍元総理の言動や東欧の小国リトアニアの行動への対応に見る様に、北京は強く出る者には明らかに弱いにもかかわらずだ。

これだけ国際社会に人権蹂躙ぶりの非難と北京五輪の外交ボイコットに晒され、一帯一路の凋落や国内経済の減速が顕在化するとなれば、その言い訳か開き直りとしか思えない、そして鄧小平路線の転換に他ならない「歴史決議」がすんなり中国共産党幹部に受け入れられたとは思えない。

その証左の一つを13日の米系紙「ラジオフリーアジア(RFA)」が報じている。最近「人民日報」に掲載された中央党史資料研究所Qu Qingshan所長の署名入りの記事が、鄧小平の経済改革を称える一方、習近平に一言も触れていないのは極めて異例である、との評論家のコメントをRFAが載せた。

政治評論家Willy Lamは、記事に習近平の名前がないのは前例がなく非常に奇妙と指摘、Qu所長は党内部の人々を代表して発言しており、習に反対していないかも知れないが、習が毛時代の政治を復活させる一方、鄧小平のやり方を後退させ、保守性の高い政治・経済政策に反対していることは確かだ、とコメントした。

中央党史資料研究所の所長が党の総書記を暗に批判した記事を、党の機関紙が掲載したということか。真相は判らないが、こうした中での米国の「ウイグル人強制労働防止法」は習近平には一層痛手になろう。

これら事態は岸田総理にも二つの決断を求めている。一つは「不義の大国」(人として守るべき道から外れた大国)に毅然として対峙すること、もう一つは表向きは兎も角として、実際上は再エネの幻想を放棄する路線を進めることだ。それでこそ「国益」を守ることが出来る。