自分で稼ぐ自助努力

私の会社は9月末決算でこの5-6年、悪くない決算を継続し、今年の9月は最高益を記録しました。ただ、この5-6年、私の給与のベースは一円も上がっていません。過去10年で見ても小遣い程度しか上昇していません。では何がモチベーションか、といえば賞与なのです。

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毎年10月までに翌年9月までの期の数値目標が設定されます。スプレッドシートで300行ぐらいありますからかなり詳細に売り上げとコストの積み上げをしています。その数字をバイブルに月次決算を大体翌10日までには出し、管理シートにインプットしていきます。毎月、達成率を見ながら目標に向けて走るわけです。年度末に目標達成すると様々な部門ごとの賞与が出る仕組みです。利益がXドルを超えた分の20%をもらう、とか、売り上げがYドルを超えたら10%をもらうといった仕組みです。私の会社ではこのやり方を一部の従業員にも適用しており、過去、10数年継続しています。

これはビジネスの「見える化」になるので励みになるとも言えます。私の場合は特に給与の上昇がゼロでこの賞与だけが収入増の糧なので一生懸命やらないと個人借入金の返済が進まないという呪縛があるのです。

会社の収益を上げる方法は私の業種である不動産事業の場合は限られます。なぜなら不動産という器は埋まればそれ以上、収益が増加しないし、賃料もさほど上昇するものではないからです。つまり、ずっと新規物件に投資し続けない限り売り上げも利益も上がらないことになります。カナダは定率方式の法定原価償却なので投資初期は償却コストが増え、利益を一時的に圧縮し、税金対策になります。ビジネスの麻薬のようなものです。

一方、投資の原資も稼がねばなりません。不動産収入だけでは不動産や建設コストが高騰するカナダでは100年たっても物件を増やすことはできません。かといって個人的に外部ローンは極力避けたいので手持ち資金を増やすしか方法はありません。そこで株式などへの投資に50%ぐらいの手持ち資金を振り向けています。会社の資金ですからギャンブル銘柄には投資しないし、分散投資が基本です。

ここまでお読みの方はお気づきになったと思いますが、「社長業ほど楽なものはない」のであります。

ではなぜ、成長をし続けなくてはいけないか、といえば周りが足を止めることを許さない、が正しい表現かもしれません。手持ちの不動産物件が常にピカピカでテナントが心地よく使ってもらえるように既存物件にメンテとキャピタルをずっと注入し続けるのです。仮に私が手抜きをすれば顧客だけではなく、近隣から苦情が入るのが当たり前の世界です。先日も所有マリーナの顧客が冬に向けてボートカバーを付けたところ、近隣住民が「カバーの色が気に入らない。お前のところは色のルールがないのか」と苦情をもらいました。あるいは清掃が不十分でマリーナの杭や通路に藻がつけば手入れが行き届いていないと通行人からクレームが来ます。

一度走り出した蒸気機関車は止まらないし止められない、しかも石炭をくべてやらないと途中で止まる、だから足を止めず、より速く走り、喜んでもらえるように成長し続ける、のです。

今日、私はなぜ、このような話を振ったか、といえばだいぶ前ですが、日経のコラムを読んで思うことがあったのです。「生涯賃金1000万円増の道 株式報酬で考える成長・分配」。秋の選挙を通して成長と分配がテーマとして挙がりました。それをするのは誰か、といえば会社に期待するのではなく、個人個人が皆、自転車をこぐことを考えなくてはいけないのだと思ったのです。

政府がばら撒く飴玉が落ちてくるのを待つのではなく、自分の与件と能力をベースに何ができるのか、そして自分が成長し、分配できる自給自足型のモデルを作り上げるべきではないかと考えています。

お金はどうやったら貯まるか、これはダイエットの逆バージョンです。入りを増やし、出を減らす、極めて簡単です。ですが、よくお見掛けする「お金が貯まる方法」は多くが出を減らすことに主眼があります。確かに無駄な支出をされる方も多いでしょう。が、これは人それぞれ価値観があるので出来る人とできない人がいます。ならばもう一つ、増やす、ということを考えてみたらよいと思います。

株式は一番手っ取り早い方法ですが、最近は日本からアメリカ株を買う、しかも配当狙いだ、というトレンドもお見受けします。あるいは自分の能力をちょっと売ってみるというのもアリです。手芸でも七宝焼きでもネットで売ればよいし、近所の口コミもあるでしょう。人には必ず何らかの秀でた能力が備わっています。それをうまく活用すればと思います。

日本人はよい才能を持っています。高い教育水準もあります。世界基準で見れば実に恵まれているのです。なのにその才能の殻をブレークスルーできずに文句ばかり言う方もいます。そうではなく、もっと踏み出す努力もしてみよう、と私は声を大にして言いたいと思っています。自立する、そして自分で成長し、自分で褒美をもらう、これが一番うれしい自分への刺激だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年12月16日の記事より転載させていただきました。