イラン大統領のクリスマス祝賀書簡

世界に13億人以上の信者を有するローマ・カトリック教会総本山バチカンでは25日、フランシスコ教皇がサン・ピエトロ広場でクリスマス・メッセージを送り、シリア、レバノン、イラク、イエメン、アフガニスタン、ミャンマー、ウクライナ、エチオピアなど紛争地の平和解決をアピールし、ギリシャのレスボス島の難民問題にも言及した後、世界の信者たちに向かって慣例の「ウルビ・エト・オルビ」の祝福を発した。小雨が降る中、コロナ規制の下、信者たちはサン・ピエトロ広場に集まり、パンデミック以来、2年ぶりにローマ教皇のクリスマス・メッセージに耳を傾けた。

サン・ピエトロ広場でクリスマスミサを行うフランシスコ教皇(2021年12月25日、バチカンニュースから)

フランシスコ教皇はクリスマスイブの24日夜、サン・ピエトロ大聖堂で記念ミサを行い、小さな恵みを大切にして生活してほしいと呼び掛け、「世界の創造主はホームレスです。神はこの世では小さくなり、その大きさは、小ささの中で私たちに与えられている。しかし、私たちはしばしば神を理解せず、むしろ偉大さと名声を求めている。イエスは仕えるために生まれきた。イエスは私たちに人生のささいなことに感謝し、それらを再発見するように願われている。私たちはベツレヘムに戻ろう」と呼び掛けた。

クリスマスを祝う書簡に署名するイランのライシ大統領(2021年12月24日、IRNA通信から)

ところで、世界からクリスマスを祝うメッセージがバチカンに届いているが、その中にイスラム教シーア派の盟主イランのエブラヒーム・ライシ大統領からのメッセージがあった。イラン指導部の強硬派で知られているライシ大統領はフランシスコ教皇宛てのメッセージの中で、「平和と優しさの預言者であるイエス・キリストの誕生日、2022年の初めに、あなたの聖性と世界中のすべてのクリスチャンに心からのお祝いを申し上げます」と述べている。

同大統領はクリスマスの意義についても言及して、「イエス・キリストの誕生日は神の意志と力の現れであり、聖マリアの精神的な位置は、神の宗教の存在論における女性の地位の偉大さを示しています。この祝福された誕生日を祝うことは、聖マリア(PBUH)を称える機会であり、利他主義のモデルと抑圧された人々の救いの先駆者であるイエス・キリストの道徳的資質を思い出します」と述べ、「アブラハムの宗教の信者の心と思いを近づけるためのあなたの努力に感謝します。あなたの健康と成功、そして神のすべての僕とすべての人間の幸福と誇りのために全能の神に祈ります」と結んでいる(イラン国営通信IRNA)。非常に格調の高いメッセージだ。ただし、メッセージの中では、救世主イエスは「預言者」と呼ばれている。

当方は「テヘランから朗報が届いた!!」(2021年12月10日参考)というコラム記事を書いたばかりだ。イランで先月、裁判所で9人の改宗者(イスラム教徒からキリスト信者に)が自宅や個人の建物で行われた教会礼拝(家の教会)に出席していたとして、禁錮5年の実刑判決を宣告されたが、イラン最高裁判所が11月3日、「キリスト者らの自宅での礼拝の参加またはキリスト教の促進は国家安全保障を侵害する行為とはならない」と判断し、改宗者を訴える必要はないとの裁定を下したのだ。イランではイスラム教以外の宗教者は「国家の敵」と受け取られてきたが、その国の最高裁判所が「そのようには解釈できない」という法解釈を下したのだ。驚くべきニュースだ。

ライシ大統領のクリスマスのメッセージはそれに次ぐ朗報だ。中東は“アブラハムの後裔たち”の歴史だ。頻繁に対立してきたが、共通のルーツを有している。だから、和解の動きが出てきても不思議ではない。スンニ派の盟主サウジアラビアとシーア派のイランの和解だけではなく、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の統合も非現実的とはいえなくなってきた(「サウジとイランが接近する時」2021年4月29日参考)。

フランシスコ教皇はクリスマス・ミサで信者に、奢ることなく謙虚であるべきだとアピールし、「ベツレヘムに戻ろう」と呼び掛けた。アブラハムから派生したユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3兄弟の宗派がここにきて歩み寄りが見られだしたのだ。2022年はアブラハムの3兄弟の動向に世界の関心が集まるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。