パルスオキシメーター未返却に出た日本人性善説の限界

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

新型コロナで自宅療養者を対象に、自治体が貸し出したパルスオキシメーターが返却されない問題が話題となっている。読売新聞の記事によると、沖縄県では16,000個を貸し出し、3,000個が未返却、神奈川県では90,000個を貸し出し、7,000個が未返却となっている。それぞれ、18%、7%と無視できない未返却率である。自治体が返却を求めたところ「なくした」「壊れた」と回答があったという。しかし、そんな稚拙な回答だけで「わかりました」と済む問題ではなく、これは重大な犯罪行為である。

Yana Tikhonova/iStock

医療現場での使用に耐えうる、信頼性の高いパルスオキシメーターは値が張る。コロナに感染し、働けなくなった家庭が気軽に買うには気後れする出費となるだろう。それ故に自治体が貸し出しを行ったという流れはよく理解できる。だが、その善意が悪用されてしまった。

返却されないパルスオキシメーターは、どこへいったのか?問題点は何か?個人的に思うところを書いていきたい。

パルスオキシメーターの行方

この報道を受けて、SNS上では「次の感染拡大に備えて保有している」「フリマアプリで売却済」など様々な憶測が飛び交った。

あくまで個人的観測の域を出ないが、おそらくこれは両方のケースが想定されると思っている。日本では現時点ではコロナの感染拡大は最も流行していた時期に比べると、比較的落ち着いているように思える。しかし、ヨーロッパでは大きな感染拡大が続いている。同じ現象が今後、日本で起きない保証はどこにもない。そうした次の流行に備えて、手元に持っておこうと考える人は存在するだろう。

また、パルスオキシメーターは需要の高まりを受け、流行前に比べて品薄となっている。そこに目をつけて、フリマアプリで売却しようと考える人も存在するだろう。フリマアプリのメルカリでは、今年9月2日にパルスオキシメーターの出品を禁じた。だが、貸し出し時期や出品禁止の時期の間に売り抜けた人がいることは想像に難くない。さらに、買い手は出どころまで考えて購入することはない。

以上の通り、失われたパルスオキシメーターの行方は、この2つと考えることができる。

日本人と性善説

他国と比較すると、あらゆる取引をする上で日本人は性善説で動くと主張する専門家がいる。筆者はこの分野における専門家ではないが、素人の個人的感覚からもそう感じることが少なくない。よく言えば人がよく、悪く言えば悪事の防止策に対応できていないということだ。

たとえば、年末やクリスマス時期になると必ずと言っていいほど、性善説に立脚する問題が起きる。クリスマスに大量のケーキや、大型の特注ケーキを予約し、当日引き取りに現れないケースや、忘年会時期に大人数の予約を入れて、無断キャンセル(いわゆるノーショー)などである。こうした問題に対して、店側が悲鳴をあげるとそれに呼応する形で、SNSで拡散、急遽利用者が店舗に押し寄せて事なきを得るという流れを毎年見る。防止策はあるはずだ。それなのに、全国で起こり続けている。こうしたニュースへの反応のほとんどは、予約者へのモラルなき行動への批判である。他方において「店舗側はなぜ、ネット予約やデポジットなど防止策を取らないのか?」といった意見も見られるが、極めて少数派だ。

件のパルスオキシメーターについても、貸し出す時に「困っている人に一刻も早く救わねば」と使命感から、アジリティを伴う貸し出しが提供されたと推測できる。だが、返却されない場合の想定プランや、違反者へのペナルティがなければ、モラルハザードを誘発する対応と見る人もいるのではないかと思っている(自治体によっては設けていたのかもしれないし、詳細の内情まではリサーチが及んでいないが)。

筆者は十把一絡げに「最近は日本人のモラルは低下した」などと昭和のオヤジ的な発想で論理展開をするつもりはない。いや、むしろ日本人のモラルは依然として、世界最高クラスであると思っている。だが、この件は何らかのモラルハザードの防止策を講じていれば、未回収率をもう少し下げることができたのではないだろうか。

筆者が日頃から持っているマインドの一つに、「人の本性が明らかになるのは、ピンチのタイミング」だと思っている。人目を気にする程度に余裕があるときは、誰しも大人しくしているものだ。だが、今回のようなウイルスなどの流行といった未曾有の災害時においては、普段は善人の人も一部は悪人に変貌してしまう。

夏目漱石は「作品:こころ」の中で「普段は善人でも、人は突然悪人になるから恐ろしい」と言っている。普通の人を悪人にさせないためにも、貸し出す側がモラルハザードの低下に漬け込むすきを与えてはいけないのだ。

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