年間3万5000人が殺害されるメキシコで女性の殺害が急増中

殺害されたタニア・メンドサ氏 MÉXICO, FEMINICIDIOS EN INCREMENTO. 31-12-2021.

メキシコで殺害事件が後を絶たない。その中でも目立っているのが女性が殺害されるケースが年々増加していることだ。メキシコでは年間およそ3万5000人が殺害されている。その中で最近は女性が殺害されるケースが急増している。

女優で歌手のメンドサ氏が殺害された

12月16日にも女優で歌手のタニア・メンドサ氏(35)が殺害された。この事件が発生したのはモレロ州スクエルナバカ市内でのこと。午後6時過ぎに彼女の11歳の息子がサッカークラブで練習が終わるのを待っていた彼女にオートバイに乗っていた二人の男が接近し、同スポーツクラブの玄関のところで彼女に銃弾を浴びせたもの。救急車と警官が現場に駆け付けた時には既に彼女の死亡が確認されたそうだ。

彼女は2010年にも誘拐事件に巻き込まれたことがあった。彼女と夫が経営している洗車場に覆面姿で数人が現れ彼女と夫と子供を誘拐。解放されて自宅に戻った時には家にあった所持品の数点と車1台が盗まれていたそうだ。その後、彼女に電話がかかって来て、同州から去るように要求されたという。それを拒否した場合は彼女と家族を殺害すると脅迫したそうだ。それで彼女と夫は警察にそれを訴えていた。そして今回、彼女が脅迫通り殺害されたというわけである。

またこの事件が発生した同日、二人の女性が別の場所で殺害された。(12月15日付「エル・ウニベルサル」から引用)。

 一日に平均して11人の女性が殺害されている

1990年頃から女性が殺害されるケースが増えている。特に最近5年間にそれが急増し、昨年2020年には3957人の女性が殺害された。一日に11人の女性が殺害されていることになる。また2018年から昨年までだと、1万1602人の女性が殺害されているそうだ。

問題は容疑者が逮捕されても判決に至る可能性は僅か2%と低く、無処罰に終わるケースが95%以上となっているというのだ。だから、被害を訴え出る女性は10人の内一人だとされている。犯人を訴えても無処罰となって報復されることを警戒しているからである。(10月5日付「エル・パイス」から引用)。

しかも、メキシコでは警官は市民から信頼されていない。というのも警官の中には犯罪組織と癒着しているケースが多々あるからだ。ということで、犯罪を犯しても逮捕されて実刑が下される可能性は非常に僅かだということで犯罪が実に容易となっている。

そして最近の特徴として若い女性が殺害されるケースが増えているということだ。それも次第に残虐性を伴うようになっている。

17歳までの女性への犯行が増加

フェミサイドと呼ばれている女性や少女を標的にした殺害の場合17歳までの女性への犯行が増加しており、2015年から今年9月までに542人が殺害されているそうだ。

フェミサイドに関係した査察調査によると、2015年に344件であったのが、今年だと11月まで既に809件にまで及んでしているという。昨年は950件あったということで、今年も昨年とほぼ同じ件数になりそうだ。(以上、11月25日付「エル・パイス」から引用)。

その一方で法廷での弁護で国選弁護士の場合を見ると一人の弁護士が平均して152人の依頼主を抱えているそうだ。その為、十分な弁護が実施できないでいる。(同上10月5日付「エル・パイス」)。

なぜ殺害事件が急増しているのか

メキシコには麻薬犯罪組織カルテルが横行し、またそれに付随してその下請け的な犯罪グループが活発に活動して犯罪を繰り替えしている。調査で判明しているだけでも150余りの犯罪組織とそのグループが記録されている。

その影響で、隣国の米国から武器の密輸入が頻繁に行われている。その数は年間で50万丁と推測されている。それがメキシコでの殺害を容易にしているのである。

メキシコの現政府は米国の武器製造業者11社に対し訴訟を起こしている。この訴訟が法廷で実際に公判に結び付くかは疑問であるが、これはバイデン大統領に対し武器のメキシコへの輸出を厳しく取り締まるようにという牽制の意味でもある。(8月6日付「エル・パイス」から引用)。

この問題を解決しない限りメキシコでの殺害事件が減少することはないであろう。

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