電通プレスリリース「FINDING THE GIFT展」より
展示されているのは、メンバーの退職後1年間の活動内容です。
「趣味の『釣り』をやり直し始めた」「パラトライアスロンの伴泳者をしている」「日本語教育能力検定試験に受かるべく猛勉強」など。
趣味、社会貢献、勉強。仕事以外の活動報告が多くを占めます。退職直後の「危機感」は、あまり感じられません。
それもそのはず。一定の仕事・収入が保証されているからです。
本展は、電通が約1年前より始めた、社員の個人事業主化制度「ライフシフト」の参加メンバーによるもの。「ライフシフト」とは、社員を一度解雇し、個人事業主として業務委託契約を結び、その後10年間固定報酬を支給する、という制度です。固定報酬は段階的に減少していくものの、独立直後に「仕事がない」「無収入になる」などの不安は解消されます。
しかし、このような体制が組めるのは「電通」であればこそ。準備することなく類似制度を導入すると、独立した社員の負担はかなり大きくなります。
今回は、社員の個人事業主化について考察します。
ライフシフトとは
電通は、「ライフシフト」に2年以上の期間をかけ検討・準備してきました。このライフシフトは、社員との雇用関係を終了し、新設する「ニューホライズンコレクティブ合同会社」(以下 NH社)と業務委託契約をむすぶ。独立した社員に、電通社内の複数部署の仕事を委託する。期間10年の契約を結ぶ。社員時代の給与を基にした固定報酬のほか、利益に応じたインセンティブを支払う。固定報酬は段階的に減少させていく、というものです。
対象は、勤続20年以上(中途:5年以上)かつ40歳~60歳の「ミドル社員」(電通の定義による)約2,800人。現在、230人程度がメンバーとなっています。上述の「FINDING THE GIFT展」は、このうち30人が出展したものです。
NH社に所属する(=プロフェッショナルパートナー)のメリットは受注面・報酬面だけではありません。
「電通100%出資会社『ニューホライズンコレクティブ合同会社』プロフェッショナルパートナー」
このように、名刺やウェブサイトに記載することにより、大きな信頼を得ることができる。ブランド面でも、「元」電通であることは効果が大きいのです。
電通プレスリリースより
アルムナイというメリット
さらに、人脈面でも大きなメリットがあります。
「アルムナイ」という言葉をご存知でしょうか。
本来、同窓生や卒業生の指す言葉ですが、ビジネスでは、自社を離職・退職した人の集まりを意味します。職場に、このアルムナイがあると、退職後大変有利です。というのも、アルムナイは人脈ネットワークそのものだからです。信頼できるかつての同僚に、相談や支援依頼できる。仕事を紹介してもらえる。紹介することもできる。しかも、退職者は増え続けるため、ネットワークは拡大していくのです。
NH社は設立してまだ1年。にもかかわらず、「FINDING THE GIFT展」では、サークル活動や、交流・支援などに活用され、アルムナイとしての様相を呈しつつあります。
しっかり準備・設計された報酬体系に加え、電通というブランド。「元」電通のアルムナイ。これらがあるからこそ、電通の社員は安心して独立できるのです。
では、電通ではない、普通の中小企業の社員が、個人事業主化を打診されたらどうすれば良いのでしょうか。報酬面と発注(受注)面で考える必要があります。
報酬は増えているか
多くの場合、企業が社員を個人事業主化する目的は「人件費を変動費化すること」です。
具体的には、自社の指揮監督下におきつつ、
・社会保険料などの固定費負担を回避し
・不況時などに「契約解除」を行いやすくすること
です。
会社が負担しない社会保険料は、(結果的に)自分自身が負担することなります。よって、個人事業者として仕事を請ける場合、社会保険料相当分報酬がアップしている必要があります。
株式会社タニタ(以下 タニタ)は2017年より、社員の個人事業主化制度「日本活性化プロジェクト」を導入しました。個人事業主となった後の報酬は、社員時代の給与・賞与に
「社会保険料等」「定年まで社員だったら支給されるはずの退職金」を加算したものです。結果、個人事業主化した社員の収入は、社員時代に比べ平均120%と大幅に増加しています。
タニタほどの増加は難しいとしても、社員時代と比べ報酬が「増えているか」。これが判断基準の1つ目です。
発注は担保されているか
電通の「ライフシフト」の契約期間は10年。タニタの「日本活性化プロジェクト」の契約期間は3年。契約期間中一定の発注は担保されます。
契約の期間がある程度長期であり、一方的に解除できるようなものになっていないこと。これが判断基準の2つ目となります。
偽装請負の犠牲とならないために
コロナによるテレワーク普及、ジョブ型雇用制度の台頭など、社会的要因も後押しし、社員を個人事業主化する企業は増えていくはずです。もし打診されたときは、
「自分を安く売らない」。