EU「原発は気候に優しいエネルギー」

欧州連合(EU)委員会は27カ国の加盟国に天然ガスと原子力エネルギーを「気候に優しいエネルギー」と分類した草案を送った。EU内では昨年から原子力エネルギーを「気候に優しいエネルギー」と分類すべきだという声と、その反対論が激しく対立してきたが、EU委員会が年末年始で忙しい時期に前者の分類を支持する最初の草案を加盟国に送付したのだ。

今年上半期のEU議長国フランスのマクロン大統領(2020年10月29日、フランス大統領府公式サイトから)

それに対し、脱原子力発電を推進するドイツや、国内に「反原発法」を施行しているオーストリアから「闇討ちだ」といった感情をもろに出した批判の声も聞かれる。EU委員会が原子力エネルギーを優しいエネルギーに分類する草案を加盟国に送った日(12月31日)、ドイツでは操業中の6基の原発のうち、3基がオフラインになった。ドイツの脱原発政策に挑戦するような展開となったわけだ(「『脱原発・脱石炭』のドイツの近未来」2022年1月2日参考)

EU委員会の草案では、「ガスおよび原発への投資を特定の条件下で気候に優しいものと分類する」というもので、CO2の中立性を達成するためのEUの取り組みの核をなす問題だ。通称「EUタクソノミー(グリーンな投資を促すEU独自の分類法規制)」をめぐる論争は、何カ月にもわたって加盟国内で展開されてきた。例えば、欧州最大の原発操業国フランスでの新しい原発への投資について、「発電所が最新の技術基準を満たし、処分場の運用に関する明確な計画がある場合、『グリーン』として分類できる」と規定している。マクロン大統領は昨年10月12日、小型原発(小型モジュール炉)の建設と核廃棄物を処理するための新技術に10億ユーロの投資をすると発表している。

EU委員会による経済活動の分類は、民間投資家が投資をより持続可能な技術や企業に転換し、2050年までに欧州の「気候中立」に大きく貢献できるようにすることを目的としている。原子力エネルギーが環境に優しいエネルギーと分類されれば、気候中立を目指すEU諸国では原発建設などへの民間投資が見込まれる。チェルノブイリ原発事故(1986年4月)や福島第一原発事故(2011年3月)などがあって、欧州では原発へ懐疑的な声が強く、「新しい原発が建設されるよりも多くの原発が送電網から外されている。世界の投資家も手を引き出している」という声がこれまで強かった。

ショルツ独政権のレムケ環境相やハベック副首相兼経済相(気候政策担当)の「緑の党」出身閣僚は、「EU委員会は原発と化石ガスのグリーンウォッシングをグリーンと分類する草案を作成し、攻勢に出てきた」と一斉に批判。ハベック氏(「緑の党」共同党首)は、「原子力エネルギーを持続可能なものとして分類することは誤りだ」と指摘。ただし、社会民主党(SPD)のショルツ首相は原子力エネルギーとガスを「環境に優しいエネルギー」と考えているといわれ、ジュニア政党「緑の党」は現時点では連立崩壊につながるような強い抗議をする考えはないという。

世界で唯一、「反原発法」を施行するオーストリアは、「原発も化石天然ガスも気候や環境に有害であり、子供たちの未来を破壊する」と指摘、反原発の路線に変化はない」という立場だ。同国のブルナー財務相は、「委員会の計画は債務規則からのグリーン免除をもたらし、原子力への資金を増やすことが狙いだ」(オーストリア通信)と警告している。

一方、環境保護グループからはEU委員会の今回の草案に対して批判の声が挙がっている。自然環境保護団体「WWF」は「国連気候変動会議COP26のわずか数週間後に、委員会は核とガスのロビーの利益のために気候政策における指導的役割を犠牲にした」と非難。「GLOBAL2000」は「国民が審議から完全に排除された」と不満を述べている、といった具合だ。

27カ国の加盟国はEU委員会が送付した草案に対し1月12日まで意見を述べることが出来る。草案内容を阻止するためには、加盟国の過半数、またはEU議会の過半数が反対しなければならない。ただし、EU内では委員会の草案に強く反対する国はドイツ、オーストリア、ルクセンブルグ、デンマーク、ポルトガルぐらいで少数だ。

分類法条例について協議された昨年12月のEU首脳会談後、オーストリアのネハンマー首相は、「グリーンなエネルギーとして原発の取り込みをもはや防ぐことはできない」と原子力エネルギーのグリーン分類論争は既に決着がついていると受け取っている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。