山火事理論でオミクロンの今後を予測する

Muhammet Camdereli/iStock

(モンテカルロシミュレーションで検証 連載46)

世界的規模で同期的し感染拡大しているオミクロン株について、ピークアウトのメカニズムを内蔵している山火事理論を用いて南アフリカ、日本を含む世界15カ国の今後を予測します。

1.山火事理論による予測の意味するもの

昨年の11月から導入した山火事理論は、感染拡大の上昇フェーズの陽性者データから初期条件を決定すると、その後のピークアウトの時期、大きさ、ピークの幅が全て決定される、つまりピークアウトのメカニズムを内蔵している理論です。

それまで行ってきた本連載の現象論的取扱いは、既存データを再現するようにパラメータを変化させ、経験則を含めてその延長として予測するものでした(AIによる予測もこの類に入ると思います)。このようなピークアウトのメカニズムを内蔵していない予測とは根本的に異なります。

現在、山火事理論の更なるブラシュアップと定式化を進めていますが、同時に、この理論を現実の現象に適用した場合、どの位データの再現性があるか、多くの国のデータに対して、どの位普遍性と予測性能があるか、を検証しています。

今回のオミクロン株の世界規模で同期した感染拡大は、検証のためには重要なデータです。下に示す15カ国の予測は、国別の事情等は考慮せず、同じメカニズムで一律に予測するため似たような形に見えます。今後、各国の結果が出てくれば、予測とデータの比較から、理論の問題点、普遍的なものと各国の事情による差異、等が明らかになり、ピークアウトのメカニズムの解明に光明を与えるだろうと期待しています。

2.ヨーロッパのデルタ株の予測の検証

オミクロン今後を予測するにあたり、オミクロン出現以前の予測について検証しておきます。昨年の11月の末にヨーロッパ各国でデルタ株が同期して急上昇しましたが、フランス、スペイン、ドイツ、ベルギーの4カ国について、山火事理論を用いてピークの立ち上がりの情報からピークアウトを予測したのが下の図です(本連載45

図1の赤線が、前回の予測です。ドイツ、ベルギーに関しては、ピークアウトの日時、大きさ共に非常によく現在のデータを再現しています。

一方、フランスとスペインは、予測のピークアウトの位置から急激に上昇して、山火事理論の予測が全く機能しないのかと思いましたが、実はこの時、既にオミクロン株による感染拡大が始まっていて、その成分が被っていたことが後から分りました。

現在のオミクロン株の予測を青線で示しています。フランスとスペインは、デルタとオミクロンのピークが重なっているので誤解しましたが、前回の予測はデルタ株の成分を良く再現していることが分ります。4カ国の事例での山火事理論の予測性能の一端が示されたと思います。

3.南アフリカのオミクロン株

オミクロンの先駆的事例として、市中感染で急激に拡大しピークアウトをして、その後急激に収束したのが南アフリカです。

図2は、左が線形表示、右が対数表示で、新規陽性者(赤)推移と共に死亡者(青)のデータ、予測線(紫)が示してあります。12月上旬に山火事理論を用いて予測したものが水色破線です。山火事理論では、立ち上がりの情報から初期条件を決めると、ピークアウトの位置、大きさ、ピークの幅がすべて決まります。

従って、ピークの幅だけを狭めることは難しいのですが、実際に南アフリカのように幅の狭いピークが出現しているので、モデルに「感染発症はしないが免疫を獲得する効果」を新たに導入して、幅を狭くするメカニズムを実装しました(紫実線)。

それでも紫実線が限界です。データはより狭い幅を示しているので、これが、オミクロン株の特有の現象なのか、南アフリカの状況の特殊性なのか、今後の解析が待たれます。オミクロンとしては最初の事例なので、今後を予測する上でも重要な情報になります。

4.日本のオミクロン株の予測

図3に日本のオミクロン株の予測を示します。左図上が実効再生産数Rtのデータ(青)と予測値(赤)、左図下が線形表示での新規陽性者のデータ(青)と予測値(赤)、右図は対数表示で、新規陽性者のデータ(赤)と予測値(黒)、死亡者のデータ(青)と予測値(黒)、60歳以上の新規陽性者のデータ(緑)と予測値(橙)です。

日本は現在のオミクロン株の拡大が始まる前が、日毎の新規陽性者が100人程度のほぼゼロコロナ状態だったため、現在の段階では、オミクロン株の拡大が穏やかに見えています。ただ、右の対数表示で分かるように、既に新規陽性者のデータは、予測線の指数関数(対数表示で直線)に乗っていますので、日毎千人を超える1月半ばには、症状の軽重はともかく陽性者数が膨大になる可能性はあります。

この図(2021年12月21日予測)ですと、ピークアウトは2月中旬、1日最大7千人の陽性者で、その後収束という予測です。

5.世界15カ国のオミクロン株の予測

以下に南アフリカ、日本を含む世界15カ国の昨年5月からの陽性者データと山火事理論によるオミクロン株の予測を示します。各図は、陽性者の対数表示で、各国のデータに係数を掛けて縦に並べています。

<5.1 スペイン、フランス、スウェーデン、ドイツ、ベルギー>

図4は、ヨーロッパ5カ国、上からスペイン、フランス、スウェーデン、ドイツ、ベルギーです。これらの国々は昨年の10月の中旬から同期してデルタ株の2度目の上昇が始まり、11月の末から12月にかけてピークアウトを迎えました。

しかし、スペイン、フランス、恐らく、スウェーデンでも、連続してオミクロンの上昇が始まったので、そのままひとつの山を形作る予測になっています。一方、ドイツ、ベルギーは、一度ピークアウトした後、新たにオミクロンの上昇が始まるツインピークのような形になっています。ドイツとベルギーのオミクロンの上昇は、まだ兆候だけですので、予測の曖昧さは、今のところまだ大きく、今後データが出次第更新する予定です。

<5.2 トルコ、イギリス、アメリカ、南アフリカ、オーストラリア>

図5は、トルコ、イギリス、アメリカ、南アフリカ、オーストラリアです。いずれの国もオミクロン株の急上昇が既にデータに見られますので、山火事理論の初期状態を決める不確かさが少なく、山火事理論自体の検証としては重要な事例になります。また、5カ国の人口、面積は甚だ違いますので、国ごとの条件がどのように影響するかも重要な点です。

他の国の予測と比較すると、南アフリカのオミクロンピークの急激な上昇、急激な収束が際立っています。これがオミクロンの普遍的な性質の反映であるとすると、他国の予測のピーク幅は全て過大評価になります。この点も注目すべき点です。

<5.3 ブラジル、インド、モンゴル、日本、イスラエル>

図6で、ブラジル、インド、モンゴル、日本、イスラエルの5カ国は、12月の初旬まで減少を続け、感染者数が低いレベルになっていた国々です。12月から現在にかけて、オミクロンによる感染拡大が始まりました。イスラエルと日本はオミクロンの兆候が既にはっきり見えていて初期状態をある程度の確度で決定できます。イスラエルがちょうど日本の先行事例になっています。

ブラジルとインドは急激な上昇が見られたばかりですし、モンゴルはまだ兆候がはっきりしませんから、初期状態の設定が難しい段階で、これら3カ国の予測線は、現在のところ曖昧さが相当大きいと思われます。今後データが出次第、更新する予定です。