明けまして御目出度う御座います。今年もコロナ禍中でもあり、昨年と同様ビデオカメラに向かって、吉例に従い、今年の干支でみた年相をお話しします。
今年は「壬寅」(じんいん・みずのえとら)です。壬は十干の九番目で、字義としては次の三つの意味があります。
第一は、はらむで、女の懐妊の形を示すとされる。一説によると原字は「紝」で、糸巻きの象形で、糸を巻きつけ次第に膨らんでいく様子から想起されたのであろう。
第二は、荷を担うという意です。白川静博士の『字統』では、その上に物を載せて工作する叩き台の象形としています。中国の古書では、「壬は任と通じ、担うなり」とあります。以上から壬は物を載せ、その負担にたえることから、「責任を担う」とか「任務を受ける」という意に用いられ、任命・任用という語が生まれました。
第三の意味は「へつらう」です。壬はしなやかで弱い木である栠(にん、じん)に通じ、意志が弱く人にへつらう人物のことを栠人と言います。そしてその多くは口先だけの信のおけない人物を意味する佞人(ねいじん)です。
次に「寅」ですが「寅」の甲骨文の形を見ると矢と両手とから成る象形文字である。両手で矢柄の曲直をまっすぐに直す形と見られます。また矢には矢が真すぐに向こうに行くように、いつまでも変わることがないということから転じて「誓う」という義があります。ですから中国古代人は重要な約束事は矢を両手にはさんで誓いました。また「宀(うかんむり)」は建物、組織を表し、その中で人が差し向かいになっている象形だとも言われています。
こうしたことから「寅」には「慎む」、「約束する」、「協力する」、「助ける」といった意があります。
同僚で助け合うということから「同寅(どういん)」「寅亮(いんりょう)」という熟語があります。同志相たすけて、色々な妨害や曲事を排除していくので「寅清(いんせい)」という熟語もあります。そうした助け合いにより人間は進歩できます。それが「氵(さんずい)」偏をつけた「演(のびる)」です。しかし、物事は進んでいる時に失敗したり、災害に遭ったりします。古代人はその恐るべきものを虎で表現しました。人は昔よく虎に食い殺されました。だから「寅畏(いんい)」という慎み恐れるという意の熟語があります。
次に中国古代の陰陽五行説で今年の十干と十二支の組み合わせを見ましょう。
十干の「壬」は「水」の陽、十二支の「寅」は「木」の陽で相生の関係です。即、「水生木」として「水」が「木」を生じ、助長させる関係にあります。
以上を統合しますと、壬寅の年相は、次のようになります。
一昨年、昨年と続く新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界の社会・経済構造には急激かつ未曾有の大変化が生じましたが、人類の英知の結晶である革新への動きは一層強まっています。
新型コロナ禍もデルタ型からオミクロン型へと新しい変異株が出てきていますが、感染力は強いが弱毒化しているように思われます。私はこうした変異株の出現はコロナ禍の「終わりの始まり」を予見させるものであり、本年中にはワクチンのブースター接種、様々な経口治療薬の開発、ウイルスの自壊、等々の要因で収束すると見ています。今年は恐らくコロナとの最後の戦いの年となるでしょう。
こうした大災の中でも人類のより良き世界を目指す革新への動きは留まることなくアフターコロナに向けた新たな価値観やライフスタイル、さらには新たな文化を少しずつ、でも着実に生み出し進化しています。
「壬」に宿った天意はそうした動きをすでにはらんでいることを暗示し、その動きの真のオピニオンリーダーなる任にあたる人物を次第に明示していくでしょう。
こうした革新や進化は決して少人数で成し得るものでなく、適切なリーダーを据えた大勢の同志が「寅」に宿った天意に従い互いに手を取り合い、相互に協力することで達成されるのです。
このように「壬寅」は「水生木」の相生関係を持ち、次への発展を強力に促す組み合わせなのです。
将来、例えば一〇年後に過去を振り返った時、二〇二二年は様々な観点で、過去からの大きな分岐になった年と位置付けられると思います。
次に、史実の歴表に徴して、壬寅の年の出来事を見ましょう。
・先ず、一二〇年前の一九〇二年
一月 第一次日英同盟調印
三月 日本興業銀行設立
五月 キューバがアメリカ合衆国から独立
八月 伊豆鳥島が大噴火
九月 江之島電気鉄道開業/第一生命保険設立/足尾台風及び相模湾に高潮/関東・東北地方に「壬寅年暴風雨」と呼ばれた記録的な風水害
・次に前回の壬寅の年である一九六二年を見ましょう。
二月 東京都の常住人口が一千万人を突破(世界初の一千万都市に)/アメリカ初の宇宙船による有人地球周回飛行
三月 日本のテレビ受信契約者が一千万突破(普及率四八.五%)
五月 大日本製薬がサリドマイド製品の販売中止(サリドマイド事件)
六月 北陸本線北陸トンネルが開通/ジャニーズ事務所創業
八月 三宅島で火山噴火
十月 ビートルズレコードデビュー/ウガンダ独立/中印国境紛争勃発/キューバ危機勃発
十一月 「日中長期総合貿易に関する覚書」締結・翌年からLT貿易が開始
十二月 首都高速道路最初の供用区間(京橋~芝浦間の四.五キロメートルが開通)
以上、壬寅の年の史実を見てきたわけですが、そうした史実から起こった変化は後の時代に大きな影響をもたらしました。
例えば、日英同盟は二年後の日露戦争や、その後の第一次世界大戦で重要な役割を果たしました。長期資金の提供者としての日本興業銀行の設立も日本の近代重化学工業の発展に大きく貢献しました。また、ジャニーズ事務所は、日本の芸能界に、ビートルズは世界の音楽界に多大な影響を与えました。
最後に、以上述べた年相を踏まえ、我々SBIグループとしてどうあるべきかについて触れておきます。
第一に、我々SBIグループは、デジタル・スペースにどっぷりとつからなければなりません。コロナ禍でDXという言葉が人口に膾炙しています。我々は二〇年以上も前からDXに取り組んできました。私から言わせれば、世間が我々にやっと追いついてきたということです。そして、世間がかく変化してきたことは我々の事業の一層の拡大に繋がるわけで、有り難いことです。しかし、我々は現状に決して満足してはいけません。追いつかれたら我々はデジタル・スペースで一層進化・深化して行かなければなりません。
私は二〇二二年の壬寅の年に一大決心をしました。これまでも虎視眈々と勝機をうかがってきたのですが、勝機は今年であるとの天啓を得ました。私の言うデジタル・スペースというのは、スペースという言葉が意味するように空間であり、宇宙であり広大かつ遠大な事業領域を意味します。例えばスポーツはネオスポーツ、文化はネオカルチャーといった具合に全ての領域でデジタル化していくのです。すでにその端緒は、eスポーツや芸術作品のデジタル化であるデジタルアートやNFT(非代替性トークン)ですでに見られる通りです。金融分野でもネオ証券化、ネオバンク化を急いでいます。今後は、より広大なデジタル・スペース関連分野にグループ自らかあるいは投資を通じて進出していく所存であります。その結果としてグループがデジタル・スペースで圧倒的な先進性を有するビジネス生態系を確立出来るのです。
今年からデジタル・スペースにおけるSBIグループのブランディング戦略を大々的に展開していきます。
第二は、新生銀行と我々の今後のあるべき姿についてです。
私は今年の十二支の「寅」こそがそれを示していると思っています。両社グループの全役職員は先ず、互いに「同寅」すなわち同僚であるという強い意識を持ち、その意識から互いに親しみある関係すなわち「寅誼(いんぎ)」に発展させ、「寅亮(いんりょう)」すなわち敬(つつし)んで相たすけ、協力しあって、大義を果たしましょうということです。
最後に、今年が分岐、転換、前時代との隔絶の年であり、変化が多くかつその程度が激しいという認識を常に持っておく必要がある。言うまでもなく、そういう年は事業リスクも大であるからです。注意すべきことを列挙しておきましょう。
① アメリカの金融政策の行方。三月にもテーパリングが終了し、その後年内に三回程度の利上げが想定されている。米国株は年半ば頃には下落する可能性もあります。
② 重要な政治イベントも多い。
三月 中国の全国人民代表大会/韓国大統領選挙
四月 仏大統領選挙
七月 日本の参議院選挙
秋 中国共産党大会
九月 日中国交正常化五〇周年
十一月 米中間選挙
③ 米中覇権争いの趨勢(すうせい)
以上が年頭に当たり干支学から考察した私見であります。何かのご参考になれば幸甚です。
編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2022年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。