中国スキー選手、欧州で特訓中

第24回冬季五輪北京大会開催まで1カ月を切った。北京周辺の積雪量が競技には十分ではないとして、人工降雪機、スノーガンが大量動員されている写真が配信されてきたばかりだ。国際社会から中国共産党政権下の人権蹂躙、宗教の自由弾圧などを激しく追及されている中、ホスト国・中国が4日、「北京大会の成功を確信している」(中国外務省汪文斌副報道局長)と豪語する外電も流れてきた。

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ウィンタースポーツの華アルペンスキー競技(北京冬季五輪大会公式サイトから)

このコラム欄で北京大会のハードルとしては「新型コロナの感染対策」、「外交ボイコット」、そして「競技場の雪不足」の3点を挙げたが、もう一つ大きなハードルがあったのだ。北京大会に参加して中国共産党創建100年を祝賀し、国家の威信を高めるべきトップクラスの中国人スキー選手たちが不足している、というか、冬季五輪大会参加基準をクリアできる選手が決定的に不足しているのだ。

人口大国・中国だからウィンタースポーツに惹かれるスーパータレントのスポーツ選手たちがどこかに埋もれていても不思議ではないが、実際はそう簡単ではない。それを思い出させてくれたのはドイツ週刊紙「ツァイト」(2021年12月8日)の記事だ。それによると、中国側が大量のインスタント・スキー選手たちを海外のウィンタースポーツ国に派遣し、欧州のスキーコーチのもと、特訓を受けさせているという。具体的には、「ノルウェー、イタリア、ドイツ、オーストリア、スイスなどからトレーナーを雇用し、スキーのテクニックを学んでいる」(ツァイト紙)というのだ。

中国側には北京大会で多くのメダルを獲得したいという野心はもちろんない。2019年以来、中国代表チームのヘッドコーチ、オーストリア人のヴィリ・ツェヒナー氏(元滑降選手、元オーストリアスキー連盟スキークロスのヘッドコーチ)は、「アルペンスキーでは無事にゴールまで転倒せずに滑ることができればいい」と、目標を急降下させている。なぜならば、オーストリアのスキー場に派遣された中国人選手たちの中には、以前スキー競技でそれなりの実績がある選手はいない。中国国営スキー連盟の要請を受け急遽スキーを滑り出したインスタント選手が多いからだ。世界のトップクラスのスキー選手とメダルを争うことはもともと期待できない。

ツァイト紙の記者がオーストリアで特訓を受けている中国選手にインタビューをしようとしたところ、予想されたことだが、キャンセルされている。けっしてライバルの欧米選手に特訓中の選手の情報を守るといった秘密保護のためではなく、欧米メディアから冷笑を受けたくない、といったところだろう。

中国側は全土から北京大会に参加できるスポーツ能力の高い若者をリクルートするために腐心し、ウィンタースポーツと縁がないアスリートにも声をかけた。たが、なかなか逸材が見つからないので、カトリック系修道院で黙想中の若い修道僧にも声をかけたという話まで伝わっている。習近平国家主席から「国家威信を高揚せよ」という使命を受けたスポーツ省の官僚たちの苦労は大変だろうと、同情せざるを得ない。

北京が2015年、第24回冬季五輪大会の開催地に選出されて以来、習近平国家主席は、「中国国民がウィンタースポーツの魅力を発見し、アイススケート、スキー、ボブスレーに興じるだろう」と期待してきた。中国のスキー業界の白書によると、1990年代半ばには中国にはわずか11のスキー場しかなかったが、2019年には年間2090万人の訪問者がいる770のスキー・リゾート地があるという。それだけではない。毎年数十億元がインフラ整備に投入され、アスリートのトレーニングにも巨額の投資が行われてきた。

第32回東京夏季五輪大会では、中国代表団は88個のメダルを獲得し、メダル獲得数では世界2番目だったが、前回の韓国の平昌冬季五輪では9個のメダルを取り、金メダルはスピードスケートの1個に留まった。冬季五輪の華、アルペンスキー競技(滑降、回転、大回転、スーパーG)ではメダルがない。地元開催の利はあるが、中国選手がアルペンスキー競技で活躍するためにはまだ多くの時間がかかるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。