筆者の持論は「体裁だけの競争入札よりも透明な随意契約」である。もちろん、法令上随意契約が可能な場面が限定的であることは承知している。
しかし競争入札、特に一般競争入札という「体裁」があれば何でも正当化されてしまう風潮は、国や地方自治体の契約活動にとってむしろマイナスだと考えている。2年前の持続化給付金に係る業務委託では総合評価型の一般競争入札が選択されたが、その経緯、手続等に疑義が生じた。ところが政府は「一般競争だから問題ない」と強弁した。一般競争だから問題ないのではなく、合理的なスキームが適正手続の下で組まれた一般競争だから問題ない、というべきなのに、である。一般競争は合理性を保証するものでもなく、それ自体適正手続である訳でもない。
いわゆる「アベノマスク」の調達では随意契約が選択された。随意契約が選択されたことを批判する声もあったようだが、筆者はそうは思わない。それまでの交渉の経緯、緊急性等を考えれば随意契約であって然るべきケースだった。問題は緊急性が高いのにも拘らず配布されたタイミングが遅すぎたこと、そして契約の状況、交渉過程の透明化が徹底されなかったことだ。
随意契約の場合、透明性(情報公開)がその生命線となる。受注企業の今後の事業に影響が出るというのは情報公開を拒む理由の定番だが、それは発注機関にとっての不都合の問題ではないのか、と勘繰りたくなることが多々ある。行政は兎角、無謬の体裁を繕いたがる。そしてその無謬は「教えないこと」によって維持できると考えられているようだ。
随意契約に対する一番の誤解は、おおよそ随意契約というものは競争性が欠ける、というものだ。ラフにいえば、随意契約とは競争入札ではないものを指す。公共調達の場合、競争入札の手続を用いなければ、競争的な契約者の選び方をしてもそれは競争入札とはいわない。典型的には、価格以外の要素だけで競い合わせる設計コンペのようなものがそれに当たる。公共調達に係る競争入札の場合、法令上、価格の要素だけで競い合わせるか、価格+アルファで競い合わせるかのどちらかのタイプしかないので、価格以外だけで競い合わせるタイプの方式は必然的に随意契約になる。なお、競争入札の手続を用いなければ、価格+アルファのタイプでも随意契約になる。このような仕組みは、公有地の賃貸、売却の場合でも同様である。ただ地方自治法施行令上は、価格+アルファの方式を競争入札で行う場合は「支出原因」の場合に限定されている。また、当然だが価格の高低は逆になる。すなわち、高い価格を提示した方が有利になる。
先日、郷原信郎弁護士が執筆した「注目の“2つの市長選”:藤井前美濃加茂市長、渡具知現名護市長が問われる「究極の信任」」という論考に接した。名護市が市所有の名護消防庁舎跡地を売却する際、その利活用を提案させ価格面を含めて競い合わせる「公募型プロポーザル」方式が採用されたが、その評点が第一位(優先交渉権者)となったJVの提案について、その土地の最終的な売却先に係る説明、実態が公募プレゼン時、議会承認に係る説明時、そしてその後の段階でそれぞれ異なっていたことが、現在市議会で問題視されている、というのである。その土地の売却先とされている企業が、現市長の親族が役員をしている会社の子会社だと指摘を受けている点が問題を深刻なものにしている。
このケースでいう優先交渉権者を選出するための公募型プロポーザルは価格+アルファでの総合評価だが、所与の事実からすると法的形式としては随意契約によるものなのだろう。しかし、競い合いの要素があるので競争的なそれということになる。このケースでは、「価格+アルファ」のアルファの部分の方が配点が高いのが特徴だ。価格の要素を残したことについて、不動産鑑定の結果を反映しただろう予定価格である最低価格よりも高い金額を付ければその分、市にとって有利になるので、このスキームは「配点のウェイト付け」の問題は残るものの全体としては合理的である。
しかし、公募型プロポーザルはその契約過程の柔軟性が特徴であり、発注者の裁量に任されている部分が大きい。もちろん、その手続は公募(公告)の段階で明示されている必要があるが、アイデアが優れている応募者を優先交渉権者として選出し、アイデア、価格について更なる交渉をするという柔軟なスタイルも可能である。
だからといって何でもありという訳ではない。公募型プロポーザルが採用された場合、公共契約に係る行政のコンプライアンスにおいて重要な点は二つある。第一に、ひとたび競争的な方法が採用された以上、優先交渉権者との交渉によって当初説明された内容を変えてよい「範囲」に限界があるということだ。簡単にいえば、当初の競争の結果に影響を与え得るような条件設定は許されないということだ。そして第二に、裁量が大きい分、徹底した透明性が確保されなければならないということだ。
この件で、名護市議会に百条委員会である「市有地売却について調査する特別委員会」が立ち上げられたという。議会承認に係る適正手続の問題と併せて公募型プロポーザルそれ自体の正当性について委員会でどのように追及され、市側がどのように答えるのか、注目されるところである。