スペインでは動物は「もの」ではない

犬や猫を自宅で飼っている人にとって、彼らは家族の一員だ。一緒に遊び、喜び、散歩する。病気になれば医者の所に駆け込む。亡くなれば供養する。犬も猫もその意味で人生の同伴者といえる。

世界地図を見る猫のミィアティラ(2022年1月、ウィーンで撮影)

オーストリアの日刊紙「スタンダード」が1月7日報じたところによると、スペインで動物をもはや「もの」(Thing)ではなく、「感情のある存在」と規定する民法の改革が4日、承諾されたという。同改革によって、人はクリスマスにプレゼントに犬を買い、飽きたらどこかに捨ててしまうことはもはやできなくなる。なぜなら、動物は「もの」ではなく、我々と同様に喜怒哀楽を有する存在となるからだ。動物世界がこの決定を喜んでいるかどうかは別問題として、人間世界は動物を対等のパートナーとみなさなければならないわけだ。仏教の表現では、一切の生きとし生けるもの「衆生」という意味になる。

夫婦が何らかの理由で離婚した場合、子供たちの保護問題が出てくる。同じように、今まで一緒に住んできた犬の保護者をどちらにするか、どちら側と一緒に住むか、などの問題を解決しなければならない。離婚の際に取り残されたペットの世話について、裁判所は明確な声明を出している。離婚後、両当事者は、犬、猫、またはセキセイインコ、ハムスターとの時間を交互に過ごす権利を有するが、当事者の1人が動物を虐待していることが明らかになれば、その者の監護権は取り消される。

毎年、20万頭以上の動物が捨てられてきたスぺインで、今回の法案は勝利だと、動物愛護グループは喜んでいるという。同改革案は「動物福祉法」と呼ばれ、社会労働党(PSOE)のサンチェス党首が率いる連立政権のパートナー、左派ポピュリズム政党の選挙同盟「ウニダス・ポデモス」(UP)が作成したものだ。

それに対し、極右政党「VOX」は、「動物は人間扱いされ、人間は非人間扱いされている」と反対している。一方、保守派の「国民党」は今回の民法改革案に同意したが、その後の措置に対しては同意するか否かは保留している。具体的には、スペインの伝統となっている闘牛と狩猟の問題があるからだ。動物愛護団体からスペインの国技「闘牛」に対して「動物虐待」として久しく反対の声が聞かれる。

スペインに先駆け、英国では昨年、同じような動物の権利を手厚く保護した法が施行されている。ジョージ・ユースティス環境長官は当時、「脊髄を有するものは全て感情を有している。動物は自分の感情を認識しており、苦しみや痛みだけでなく、喜びも体験できる」と説明、「英国は動物の権利のパイオニアだ」と威勢がいい(ドイツ週刊誌『ツァイト』オンライン」2021年5月9日)。

そのためには法律が必要となるわけだ。例えば、動物虐待に対する罰則は、懲役6カ月から最長5年に引き上げ、生きた動物の輸出、猫の毛皮の輸入とマイクロチップの禁止、二酸化炭素による豚の殺害も止める、等々が明記される。

ユースティス環境長官は、「このプロジェクトは世界への重要な合図だ」と強調し、「これらの変更の多くは、英国が欧州連合(EU)から脱退した結果、可能となった」と述べているが、ジョンソン首相が環境問題に力を入れ出した背後には、彼の夫人キャリーさんが環境愛護活動家であることが関係している、といった冷えた受け取り方をする声も聞かれた。

興味深い点は、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡がり、多数の犠牲者を出している時、スぺインや英国で動物の権利擁護の法案が作成されたことだ。外出制限、接触禁止などソーシャル・コンタクトが制限されているコロナ禍で、動物を飼う人々が増えてきていることはこのコラム欄でも紹介した。

独週刊誌シュピーゲル(昨年1月30日号)は「動物たちのパワー」(Die Machtder Tiere)というタイトルで特集記事を掲載した。動物に囲まれた家族風景を描いたイラストがその表紙を飾っている。ドイツでは昨年、前年度比で20%ペットの売り上げが増えたという。心理学者は、「動物たちは人間の魂を癒し、病気を予防する。多くの人間に力と生きる喜びを与える」という。シュピーゲルは「コロナ禍でソーシャル・ディスタンスが叫ばれ、人と人の直接接触が難しくなったこともあって、寂しさを感じる人間が増えてきた。そこで犬や猫を飼って、動物たちを世話することで癒しを受けるからではないか」と受け取っている。心理学的にいえば、一種の代償行為だ。

忘れてはならない点は、コロナ禍で苦しんでいるのは人間世界だけではないということだ。人間社会の異変は動物たちも感じてきたはずだ。その意味で、コロナ禍は人間と動物をより接近させ、深まった関係を築く機会を提供してきたといえるかもしれない。スペインや英国の動きは少々過激な内容もあるが、それを裏付けている。

ちなみに、犬や猫は人間と同じようにコロナウイルスに感染する危険性がある。ドイツの動物園ではPCR検査が常に行われている(「独紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング電子版1月5日)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。