釈然としないカザフスタンの混乱

中央アジアのカザフスタンで年初に燃料価格の高騰で混乱が起きたものの、デモ隊の鎮圧が行われ、多数の死者を出していると報じられています。はたして文面通りの混乱なのか、普段なじみのないこの国の状況について少しのぞいてみましょう。

Kyrylo Neiezhmakov/iStock

カザフスタンを地図上で何処と指させるようならばなかなかの通かもしれません。しかしながらも旧ソ連から独立した国としては最大の国土で世界9番目に大きな国家なのです。主たる宗教はイスラム教です。同国には資源が多く、石油やガスほか様々な埋蔵資源が多く、特にウランは世界一の産出高を誇ります。

国土は砂漠化しており、使えるところは限られています。

さて、その国で1月2日に暴動が起きます。そして停電となり、インターネットも当然使えず、以前にもお伝えしたように世界有数のビットコインの発掘国家としての機能も果たせず、ビットコインの価格下落の原因を作ったともされます。この停電は最新の報道では復旧した模様でネットも回復しているようです。

大統領のトカエフ氏も国家は徐々に落ち着きを取り戻している、と声明を発表しています。鎮静化に向かっていると理解してよいのでしょう。では一体、何が起きたのか、私には文面通り、LPG(液化石油ガス)の高騰だけなのだろうか、と疑問を呈しています。

疑問の一つには同国の治安当局(国家安全保障委員会)の議長だったマシモフ氏が逮捕された件です。それも国家反逆罪です。マシモフ氏は諜報部のトップだったわけですから、何らかの情報をベースに国家転覆をはかった可能性があります。

同国は建国の1991年以来、ナザレバエフ氏が終身制の大統領として務めたものの19年に辞任、トカエフ氏に大統領のポジションを譲るものの自身は国家安全保障会議の議長に残り、影響力を行使していました。が、今回の混乱でトカエフ大統領が同氏の議長職を解任、本人は国外逃亡を図ったとされています。前述のマシモフ氏はナザレバエフ氏の腹心の部下とされます。

もう一つの疑問点はトカエフ大統領が即座にロシアに支援を求め、ロシアの治安維持隊が同国に入り、混乱を鎮静化させている点です。併せて、トカエフ氏は反逆者は容赦なく射殺してもよいと述べていることも含め、アメリカのブリンケン国務長官はなぜロシアに支援を求めたのだろう、トカエフ大統領の非人道的発言も容認ならない、とコメントしています。

これらの事実を並べると第一にトカエフ氏と前大統領のナザレバエフ氏との確執、次に国民の不満、三つ目にトカエフ氏の体制保持のためのロシアとの関係強化の演出に見えます。ちなみに中国もトカエフ氏を支持すると表明しています。ところでこのトカエフ氏は外交官出身で外務大臣を長く勤めています。ロシアと中国で学び、中国語も流暢だとされます。

直接的引き金は国内問題です。それは民主制度がほぼ全くない中で国民が燃料費高騰を引き金に行動に移したこと、一方、トカエフ氏は敵対する前大統領とその派閥の一掃を図ったこと、トカエフ氏が自身の保身のためのロシアと中国を後ろ盾にする一方でこれから始まる組閣のプロセス次第では国民は再度蜂起するかもしれないことがあります。これら一連はカザフスタン国内の事情だとみています。

一方、ロシアから見ると違う風景かもしれません。少々強引かもしれませんが、これをウクライナ問題への見せつけだとしたらどうでしょうか?ロシアと中国は自身への反逆は許さないとする示威行為です。ロシアは旧ソ連邦諸国にロシアへの忠誠心を持たせ、ロシア帝国主義の強大化を第一義としています。いかなる疑念も抱かせないような国家統治はすべてに優先するという発想です。

ウクライナが西側諸国になびくならそれは力を持って制圧するという心理的駆け引きがあったとみてもおかしくないでしょう。プーチン氏は戦略巧者です。自身を正当化し、帝国の再構築を着々と進める、これが彼のやり方ではないでしょうか?

トカエフ大統領も北京五輪に行きます。プーチン氏も行き、習近平氏との会談も予定されています。世界の勢力地図は確実に安定感を失っています。我々にとって縁もゆかりもないところですが、地球儀は小さくなり、複雑なパワーゲームが繰り広げられているといっても過言ではないのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年1月11日の記事より転載させていただきました。