おそらくみんな薄々感じていることでしょうけど、日本の雇用制度というのは世界的に見ても非常に特殊で、それを海外と比較して取り上げる記事も定期的に出てきます。
そうした記事の中では海外通の識者が登場し、いかに日本と海外の労働観や労働環境が違うかを滔々と解説されています。
ただ、なぜそうした違いが生まれるのかという点については皆さんさっぱり見当もつかないようで、たいていは「国民性の違い」みたいな話で終わりますね(苦笑)
「日本は消費者が重視されるが、ドイツでは労働者が重視されるのである」でまとめあげてるこの記事なんかも典型ですね。
【参考リンク】生産性が「日本人より40%高い」ドイツ人が、月~金を「平日」と呼ばない理由
結論から言うと、国民性を原因に挙げている記事はスルーしてOKです(労働観の違いについては結果的には生じているかも、ですが)。
働き方の違いには厳然とした理由が存在します。そしてそれは今後大きく変化し、日本人は新しい働き方に寄せていく必要があるでしょう。
というわけで今回は日本人の働き方についてまとめておきましょう。
日本人の生産性が低いのはそれが最も合理的だから
20年ほど前の話ですが、当時筆者は、欧州の提携先から10人ほどのエンジニアを研修で受け入れる担当をしていました。
期間は一か月くらい。寮に入って日本のモノづくりの現場を体験するみたいな趣旨だったと思います。
で、まず最初に彼らが驚いたのが「特に担当する業務が決まっておらず、当日の朝に作業内容が指示される」ということです。
日本人からするとそれってごく普通の話だと思うんですけど、職務記述書を交わすのが普通の彼らからすると、それは異様な雇用形態に感じたそうです。
そして、彼らはすぐにある点に気づきます。普通にテキパキ仕事をして担当分を終わらせると、マネージャーからすぐに新しい作業が降ってくるわけです。その分の賃金がもらえるわけではないので“働き損”ですよね。
というわけで、すぐに彼らは与えられた仕事で定時いっぱいまで引き延ばせるよう、ちんたら働くようになりました。
でも、彼らがジパングで出会った最大の発見は、まったく別のものでした。たまたま遅くなって気づいたのか。あるいは誰かに教えられたのか。とにかく、彼らはあることを知ってしまったんですね。
それは「この国では定時を過ぎて1時間遅く働くだけで2千円ほど貰える」という事実です。
「え?頑張って担当分以上に仕事してもご褒美もらえないのに、もともとの担当分をちんたら長く働くだけでそんなに貰えるの?ようし、頑張るぞぉ!」
という会話があったかどうかは知りませんが、ある日から突然、全員が日中はちんたら働き、日本人管理職に「君たち今日はもういいから寮に帰りなさい」と促されるまで働くようになったんですね。
彼らの母国に「郷に入らば郷に従え」みたいなことわざがあるのかは知りませんけど、そんな感覚でしょう。
要するに「担当業務を明確にしないメンバーシップ制度下で最大限稼ぐには、チンタラ働いて残業代を稼ぐ」のが最も合理的なんですね。
労働生産性が日本よりはるかに高い北欧出身者が1週間ほどで量産型ジャパニーズサラリーマンに魔界転生するさまを間近で見て、筆者は日本型メンバーシップ雇用はつくづく因果なものだなと痛感した次第です。
上記のようなことを国全体で続けているんだから、そりゃ労働生産性も低迷しますね。
【参考リンク】日本の労働生産性、1970年以降で過去最低ランク――労働生産性の国際比較2021
以降、
なぜテレワークとジョブ化は一気に進んだのか
意識すべき“新しい働き方”
※詳細はメルマガにて(夜間飛行)
Q: 「終身雇用制度でエキスパートとして働くことは実現可能でしょうか?」
→A:「既存のシステムのままだと厳しいですね」
Q:「前職の年収は転職時にどれくらい影響するものなんでしょうか?」
→A:「今はあまり気にする必要はないでしょう」
雇用ニュースの深層
Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(金曜配信予定)
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2022年1月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。