私のオミクロン株の広がりに対する予測は無茶苦茶甘かった。
完全ではないものの水際対策が比較的うまくいっていたと思っていたからだが、米軍基地という大きな穴が開いていたとは考えていなかった。沖縄や岩国をはじめとする米軍基地を起点とする感染の大規模流入とその後の急拡大は想定を大きく上回るものだった。
オミクロン株の感染が速いのは海外のデータで明らかだったが、一人が3日で2倍になり、6日で4倍になったとしても、始まりが1人であれば128人になるには21日かかる。1000人になるには30日だ。起点が100人になれば、1000人に広がるには10日で、30日後は100000人になる。これが今起こっている現実だ。特に、年末年始には多くの観光客が沖縄を訪問したので、一気に全国に広がった。
期待できるのは、ピークアウトまで時間が短いというデータだ。南アフリカでは、12月12日をピークにすでに6-7分の1となっている。英国も1月4日をピークに減少し続けている。今回の日本の感染急拡大で最も強く感じたことは、日本は米国から独立していないという過酷な現実だ。
日本に来る時にはPCR検査をしないが、日本から帰国する時にはPCR検査をすると報道されていた。悲しいが、日米同盟関係と呼ぶには程遠い関係だ。中国が尖閣諸島周辺で怪しげな行動をとっているので、なおさら、米国には強い発言をすることができなくなっているようだが、日本人としては弱すぎる感が強い。150年ほど前の不平等条約と同じレベルの日米関係がゾンビのように生き残っている印象だ。
沖縄の医療逼迫は、明らかに「濃厚接触者の14日間自主隔離」の要因が大きい。そこで、エッセンシャルワーカーが働けなくなって社会が回らなくなるので、14日を10日にすると言うが、これも本末転倒の話だ。科学的に考えて、「潜伏期間が短いので10日、あるいは、7日でいい」という判断をすべきであって、社会が回らないかどうかを一義的に考えるのはおかしいのだ。もし、科学的根拠もなく、自主隔離期間を短くして、自主隔離してから11-14日以内に症状が出る人が10-20%もいれば、それによってさらなる感染拡大を引き起こすことになる。
沖縄の600人規模のデータでは、92%が無症状か軽症で、重症はいなかったという。米国では、この程度なら集団免疫が成立するのを待てば・・・といった考えもあると言う。重症化率を考慮せずに、厳しい行動制限をすれば、経済活動のダメージ、フレイルの進行による高齢者に占める要介護人口の増加など、日本経済が崩壊する。「オミクロン株による感染で初の死亡」というタイトルの記事を読むと90歳代の高齢者だった。この国のメディアは、底知れないアジテーション馬鹿になってしまったように感じてならない。
数日前のCNNニュースでは、ファウチ博士が共和党議員に「虚偽情報を流すな」と議会で食ってかかっていた。サクラメントからワシントンに「ファウチ博士を暗殺するために向かっていた人」がスピード違反で検挙され、車内でAK-15という電動銃が発見されたからだ。日本には科学がないが、米国議会も党利党略のレベルの低い民主主義的議論が横行する。
日本では相も変わらず、感染者数でのバカ騒ぎが続いている。はっきりしないので様子を見て・・・という専門家のコメントが多いが、誰も判断しない、誰も責任を取らない国でいいのだろうか?北朝鮮に攻撃されても、甚大な被害を目の当たりにするまで、様子を見るのだろうか?
昭和の前半に生まれた人間は、復興し、飛躍的に成長してきた日本を見てきた。日本という国に誇りを持つことのできた世代だ。
改めて問いたい。
一 至誠に悖るなかりしか
二 言行に恥ずるなかりしか
三 気力に欠くるなかりしか
四 努力に憾みなかりしか
五 不精に亘るなかりしか
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。