日中韓の「姑息」合戦:日本は速やかに撤収すべき

NickOnTheDraw/iStock

本来の意味を取り違えて使われる日本語の筆頭格に「姑息」がある。文化庁の調査(平成22年度)によると、「卑怯な」という意味と回答した人の割合が70.9%にも上り、本来の使い方である「一時しのぎ」という意味と回答した人の15.0%を大きく上回ったそうだ。

『新明解』には「根本的に対策を講じるのではなく、一時的にその場を切り抜けることができればいいとする様子だ」とあるが、今日の中国、とりわけ習近平の独裁が極大化した「北京」、そしてその経済力に呪縛される「国際社会」の有様は、この「姑息」の正誤両方の意味を想起させずにおかない。

そんな折、キヤノンがコンパクトデジカメの珠海工場を閉鎖すると17日の『NNA(共同系アジア専門メディア)』が報じた。スマホ普及による需要減で10年前は1万人を超えた従業員が1千人を切ったことやコロナに伴う部品の供給不足のためで、生産を日本に移管する由。

結構なことだが、キヤノンには大連、広東省中山・深圳、蘇州に複合機やレーザープリンターなどの工場があり、それらは生産を継続するそうだから、本格的な中国離れとは程遠い。

キリンも14日の『NHK』が「中国での清涼飲料製造から撤退を検討」と報じたが、合弁会社の全持株(40%)を売却する様で、ビールを製造販売する現地子会社は継続するそうだ。同社は豪州でもソフトドリンク事業を手放したので、海外の事業再編の一環ということか。

中国国営メディア『新華社』は20年12月、新型コロナウイルスへの緊急経済対策の一環として、安倍政権が打ち出した生産拠点の国内回帰支援資金2435億円に関する「『日系企業が次々と中国から撤退』との言説の真偽を検証」と題する記事を掲載した。

記事は、21年7月に「87社が730億円を受け取り」、8月に「1670社が申請した」としつつ、「広東省深圳、広州、東莞、仏山各市にある日系企業と中国に駐在する日本の機関を調査」した結果、「大半は中国から撤退する計画がなく、一部の日系企業は新型コロナ感染症の影響を理由に、中国での増資と生産拡大を決めていることも分かった」と続く。

また昨年12月28日の『Diamond Premium News』は、監査法人大手PwC Japanが、海外事業を展開する売上規模100億円以上の、製造業からサービス業までの日本企業約300社を対象にした「海外事業リストラ候補エリアランキング」の調査結果を公表した。

それに拠れば、有望な海外展開先と考える国や地域は、米国が31%でトップ、以下中国19%、インド11%と続いた。一方、撤退や縮小を検討する国や地域では、約20%の企業が対象と回答した中国がトップとなった。つまり、それぞれ約60社が中国を進出と撤退・縮小の対象としていることになる。

が、キヤノンやキリンの事例を見るまでもなく、中国を改革開放当初の様に「生産拠点」とみるか、1人当たりGDPが2万ドルに迫る14億の「市場」とみるか、あるいは「その両方」とみるかは、企業のコア事業やコア技術とそのどの部分を海外事業として行うかによって異なろう。

昨年5月に『週刊ポスト』が報じた「日本企業33社の中国依存度ランキング」は話題を呼んだ。売上高1.5兆円前後を誇る日本の電子部品大手2社、TDKと村田製作所の中国市場依存比率が共に5割を超えていたのだ。売上7千億前後の日本ペイントと日東電工も3割を優に超える。

これらは産業用(B to B:business to business)だが、B to C(B to customer)でも資生堂2358億円、ユニクロ3809億円は、各々売上の25.6%と19.0%を占める。B to Bでは住友化学4337億円、東レ3917億円、ダイキン3412億円の中国比率も大きいが、依存度13~19%は左程でない。

奇異に感じるのは、この記事が「ウイグル問題以外にも、チャイナリスクはある。台湾問題で米中間の亀裂が深まり、そこで日本政府が米国寄りの姿勢を強めれば、日本製品の不買どころか日本人駐在員の拘束まであり得る」などとしつつ、最も重要と考えるべき中国の政策に触れていないことだ。

それは「中国製造2025」。韓国の朝鮮日報はここ最近、韓国の高過ぎる中国依存の実態とリスクを連続して報じているが、中国が「『中核技術産業における国内企業のシェアを70~80%に引き上げる』とする『中国製造2025』計画を推進している」ことを確と書いている。

16日の記事に依れば、某化粧品大手は今年、中国の「イニスフリー」店舗280ヵ所のうち半分の140カ所を閉店する計画で、昨年は「エチュード」店舗610カ所を閉鎖した。同社は16年に中国事業の好調で営業利益1兆ウォン(約960億円)を達成していた。

しかしTHAAD配備問題で中国での「限韓令(ボイコット)」が本格化、海外販売の70~80%を占めていた中国事業の業績が急落したという。現代自動車も16年の179万台が、21年は50万台に減少、海外初の生産拠点北京第1工場は既に売却し、第2工場も売却検討中という。

SKは崔会長自ら中国を第2の内需市場にする「チャイナ・インサイダー」戦略を推進してきたが、北京のSKタワーや10年間経営してきたレンタカー事業を昨年整理し、大規模な再編を進めている。LGも北京のツインタワーや昆山の車両部品と冷蔵庫の2工場を整理した。

サムスンは天津と深圳のスマホ工場を止め、恵州のスマホ素材、天津のテレビ、蘇州のノートパソコンと液晶ディスプレーの各工場を閉鎖した。THAAD用にゴルフ場を提供したロッテは更に悲惨で、北京と河南の清涼飲料工場、天津の百貨店2ヵ所、上海のスーパー112ヵ所とロッテマートを閉鎖し、ほぼ全面撤退の様相。

国際標準と乖離した中国の規制も韓国企業にとっては致命的リスクで、ゲームが代表業種だそうだ。数年前から許可証の発給を全面中断され「中国リスク」に陥った。年200種の中国製ゲームが韓国で発売される一方、過去4年間に中国で配信が認められた韓国製ゲームはたった1つという。

別記事は、中国での韓国企業の立ち位置が弱まっている一方、韓国に対する中国の影響力が徐々に強まっているとし、最近大混乱した尿素水のように、輸入品の1850種で中国シェアが80%を超えており、ハイテク分野でも中国の影響力が強まっていると警鐘を鳴らす。

太陽光発電では、電池78%、パネル72%のシェアに達し、黒煙やリチウム、レアアースなどEV用バッテリー素材も中国企業がほぼ独占で、世界トップレベルの製造能力を持つLG、SK、サムスンなどのバッテリーメーカーも、原材料のほとんどを中国に依存しているそうだ。

すなわち「中国が自国企業を支援して韓国企業への素材輸出を禁じた場合、韓国での生産が全面的に中断する恐れもある」ということで、これこそ「中国製造2025」なのだ。

朝鮮日報はこれら記事で「金の卵を産むはずだった中国市場は今や諸刃の剣」で、「中国への投資を増やす時代は終わった」とし、「技術競争で中国は莫大な人的資源と資本を前面に出し韓国を激しく追撃」しており、「投資などのスピード戦で中国の追撃をかわさねばならない」との識者の声を載せている。

が、25年までに7〜8割を国産化すると宣言し、「内循環(=鎖国)」まで口にする中国はもはや有望市場といえまい。しかも中国の成長の源泉は、知財の盗取、産業補助金、技術の強制移転、為替操作、出稼ぎ農民工の低賃金などの「姑息」な国際ルール逸脱であり、その体質に変化はない。

無論、それに目を瞑って来た「姑息」な先進諸国(日本を含む)の責任もあるし、文政権の対中弱腰も足元を見られた。が、島山・安昌浩を「虚偽の悪弊に溺れきっている」と嘆じさせた韓国人すら敵わないルール無視の共産中国に、ナイーブな日本人の正攻法が通用すると考えることも「姑息」なのだ。

折角の中国非難決議を親中公明党にいい様に骨抜きにされた岸田政権だが、これで参院選に勝てると思ったら大間違いだ。岸田総理は、この韓国の惨状を「他山の石」とすれば良い。いずれ日本の市場足り得なくもなる中国には、何事によらず強く出ることが重要、と文在寅が教えてくれている。