女性役員クオータ①:企業の「お飾り」か、戦力か

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経済界の女性活躍を測る指標として近年注目されているのが、女性役員の比率である。東京商工リサーチによると、2021年3月期決算における日本の上場企業2,220社の女性役員比率は7.4%であった。前年の6%よりわずかに上昇も、フランス43%、ノルウェー42%、フィンランド38%、スウェーデンとイタリア37%、イギリスとベルギー35%など躍進著しい西欧諸国には遠く及ばない(European Women on Boards Gender Diversity Index 2020)。

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とはいえ、こうした高い比率は自然に上昇したわけではなく、企業の役員会メンバーの一定比率を女性にすることを命じる「女性役員クオータ」と呼ばれる制度の導入、すなわち国策による成果なのである。

この制度導入の嚆矢はイスラエルで、1993年政府系企業に役員会の男女バランスを取るように命じ、さらに1999年には私企業にも役員会に最低一人の女性を含むことを義務付ける法改正を行った。だが、女性役員クオータが西欧で広まった契機は、ノルウェーのドラスティックな取り組みにあった。

ノルウェー政府は、2003年に政府系企業と上場企業の取締役会の女性比率を2005年 7月1日までに40パーセントに引き上げる法律を制定した。だが、比率は一向に伸びず、2005年「2007年12月31日までに40%が達成できない企業には、解散も含む罰則を課す」改正を断行した。厳罰化が功を奏し、2008年には40%の目標が達成された。

ノルウェーの成功は、近隣諸国に波及し、フィンランド(2005年、40%)、スペイン(2007年、40%)、フランス(2011年、40%)、イタリア(2011年、33%)、ベルギー(2011年、33%)、アイスランド(2011年、40%)が続いた(S. Trejesen, R.V. Aguilera and R. Lorenz “Legislating a women’s seat on board,” 2014)。

2012年には、EEU議会が域内の上場企業に社外取締役の40%を女性にすることを求める議案を提出した(非上場と従業員250人未満の企業は除外)。しかし、案件は未だ可決に至っていない。加盟国27のうち、18カ国は賛成だが、デンマーク、スウェーデン、ドイツを含む9カ国が反対しているためだ。デンマークとスウェーデンは法的規制ではなく、企業の積極的な女性登用を促す取り組みによって成果が上がっており、このソフトタッチの手法を変えたくないというのが、反対の理由である(Reuters, “factbox-women’s quotas on company boards”:2022年1月15日)。

一方、ドイツは2015年に30%のクオータを法制化していたものの、その対象が監査役に限定されていたため、業務の執行に関わる女性役員は15%に留まり、制度の欠陥が指摘されていた。

もっとも、変化の兆しもみえる。昨年6月に業務執行役員の30%を女性にする法が可決され、加えて12月に発足したショルツ政権はジェンダー平等に積極的とみられるため、可決への期待が高まっている(Reuters)。

法に基づく強制的措置には様ざまな批判がともなう。わけても、抜擢される女性に向けられる、役員に相応しい能力や経験が備わっているのか、数合わせのための「お飾り」ではないのかといった批判だ。クオータのせいで昇格を見送られるかもしれない男性のみならず、下駄を履かせてもらいたくない女性も抱く疑念だ。

実際のところ、女性役員の増加は企業経営にどのような影響を及ぼすのか。マッキンゼー(Mckinsey and Company 2007)クレディ・スイス(Credit Suisse Research Institute 2012)が行った研究は、いずれも女性役員を肯定的に評価した。マッキンゼーは女性役員が経営方針、説明責任、社員の士気、革新性等において良い効果をもたらす点を、またクレディ・スイスは経営健全化への効用を指摘した。企業収益については、前者が関連性を否定したのに対し、後者は収益増にも貢献するとした。

世界有数のコンサルティング会社や投資銀行の研究結果であったことも相まって、女性役員の増加がコーポレートガバナンスを向上させるという考え方は、西欧諸国やE Uにおける女性役員クオータ導入の原動力の一つである。事実、最高経営責任者レベルの女性比率を2030年までに40%にまで引き上げるという思い切った法案を昨年12月に可決したフランスで、同案を提起したマリ=ピエール・リクサン議員は、女性の役員や経営トップの増加によって「企業のパフォーマンスが向上し、経営状況が改善する」(madomeFIGARO jp)と強調する。

女性役員の比率を増やす法案は、フランスをどう変える?|Society & Business|madameFIGARO.jp(フィガロジャポン)
フランスで国民議会議員マリ=ピエール・リクサンが提出した法案が、クオータ(割り当て)制導入という問題提起を超えてビジネスの世界に深いインパクトを与えそうだ。法案の「ドミノ効果」について、リクサン議員と、転職エージェント、マイケル・ペイジのエグゼクティブディレクター、マル…

女性役員と企業収益の相関性については、プラスの相関を否定する研究もあり、まだ明確なことはわからない。しかし、社会貢献や市民社会との調和、環境問題への取り組み、経営の透明性など企業倫理と社会的価値が問われる今、企業経営に新風を吹き込むことが必要だ。その点で、女性役員の活躍の範囲は広く、戦力として期待がかかる。