税制改正を成し遂げるには:未婚のひとり親の所得税優遇実現から学ぶ

税制とは何か

今回取り上げるテーマは、税制改正です。税制というと少しとっつきにくいような印象を受けますが、政策を前に進めるためには大事なツールです。

衆議院HPより(編集部)

この連載で何度か言及していますが、政策とはいわば、

・お客さんである国民からすると、商品を選べない(例えば法律や制度などはみんなに同じように適用されるので民間の商品のように選べません)
・ほしくない人も、お金は払わないといけない

という厄介な商品のようなものです。

税制というのはこの2つめ、

「強制的に国民にお金を払わせる」という機能を担う政府のツール(政策手段)の一つです。

税制というのは、このように国がお金を徴収するものではありますが、収めるべき税金を安くすることで企業の活動にインセンティブを与えることもできますし、災害等により生活が苦しくなった人を支援するために税金を払わなくてよくしたり(免除)、税金を支払う期限を後ろ倒ししたり(猶予)、様々な目的を達成するために活用できる便利な政策ツールでもあるのです。

今回取り上げる改正は結婚せずに子供を生んだシングルマザーやシングルファザー(ひとり親)のための税制改正です。

2020年度税制改正前も、離婚や死別(離婚等)を経験したひとり親には、「寡婦(夫)控除」が適用され、所得税を算定するベースの金額を特別に低くする仕組みがありました。

所得税の税率は、所得が多くなるに従って段階的に高くなります。所得金額から寡婦(夫)控除等の金額を引いた額(課税所得金額)に税率を掛け算することで、支払うべき税金が算出される仕組みです。

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引用元:国税庁HP 

つまり、寡婦(夫)控除が適用されると、実際の所得金額から一定の金額を引いた額に所得税率を掛け算すればよいということになり、結果として、払うべき所得税の額を低くすることができるわけです。※住民税にも同様の仕組み有。

2019年度までは、婚姻歴のないひとり親(未婚のひとり親)は寡婦(夫)控除のような税優遇の対象とはなっていませんでした。

が、民間団体の働きかけやその思いに共感した政治家の働きにより、2020年度以降は、未婚のひとり親であっても離婚等を経験したひとり親と同じように寡婦(夫)控除と同等の優遇を受けられるように制度が変更されました。

今回は、この制度改正を実現するために、長年活動を行っていたしんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子さんにお話をお伺いしました。

2019年12月に未婚のひとり親のための税制改正を与党が決定するまでに、どのような動きがあったのか。赤石さんや政治家の動きを追体験し、皆さんが政策提案をする上での参考にしていただきたいと思います。

 政策は実現するまで気を抜けない

実は、未婚のひとり親の問題だけでなく、結婚の有無により不公平な取扱いを受けている人が存在することは、2019年よりもずっと前から課題として認識されていました。

2013年9月4日には、最高裁で、結婚していない男女から生まれた子の相続分を結婚した男女から生まれた子の相続分の半分としていた民法の規定が違憲と判断されました。
婚姻の有無により、子供を不当に差別することは法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するという考え方からです。

また、2013年に朝日新聞が行った調査(※)によると、1990年代後半から、未婚のひとり親に対しても離婚や死別を経験したひとり親と同じように保育料の減額を行う自治体があったことが明らかにされています。

※2013年9月22日朝刊1面

国会での議決が必要となる税制上の寡婦(夫)控除による所得税優遇についても、制度を是正する動きがあり、2014年度の与党税制改正大綱から

「寡婦控除については、家族のあり方にも関わる事柄であることや他の控除との関係にも留意しつつ、制度の趣旨も踏まえながら、所得税の諸控除のあり方の議論の中で検討を行う。」

という文言が登場(※)していました。

※税制改正は、実質的な意思決定を行う主体が与党である(法律の多くや予算は国会の議決は必要ですが、政府が実質的な調整を行うと言ってよいと思います)という特徴があるので、年末に公表される与党の税制改正大綱に「検討」という言葉が入ることは、将来における税制改正に重要な意味を持つのです。

2018年度の与党税制改正大綱(2017年12月公表)では、更に踏み込み

「子どもの貧困に対応するため、婚姻によらないで生まれた子を持つひとり親に対する税制上の対応について、児童扶養手当の支給に当たって事実婚状態でないことを確認する制度等も参考にしつつ、平成31年度税制改正において検討し、結論を得る。」

という文言になりました。

第2回:成長戦略とは(菅政権になって何が変わったか)で詳しく説明していますが、役所などの資料は一言一句意味が込められています。その文言が政府の将来の政策の方向性をどれだけ縛るかに直結するからです。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2022年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。