社会が回らないのか、施策が社会を回さなくしているのか?

「人流抑制ではなく、人数抑制」をなどと謎かけのような発言をしていたかと思ったら、「PCR検査なしでコロナと診断を」と場当たり的な対応を続けていることに、誰も批判しなくなった日本はいよいよ末期的だ。「検査と隔離」の大原則を軽視したあげく、検査が限界を迎えると、PCR検査なしでも診断をと言う。

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確定診断せずに、症状が重くなった場合にどうするのか?診断が1日遅れれば症状は悪化することさえ理解できない人たちには退場してもらうべきだ。こんな科学のない馬鹿な施策は世界の笑いものだ。日本のメディアの劣化も底なしだ。

南アフリカは12月12日の約38000人の感染者をピークに急減して、1月22日には約3500人と10分の1未満に減少した。イギリスも1月4日の約220000人をピークに1月22日には約77000人となり、2週間半の間に3分の1近くまで減少している。南アフリカは流行がどこに行ったのかと思うような生活に戻っているし、イギリスは行動制限撤廃に向けて舵を切った。

昨夜のテレビでビートたけしさんが「ただの風邪と思えばたいしたことがない」と発言していた。「ただの風邪」よりは少し重いかもしれないが、デルタ株よりもはるかに軽症である。科学的・医学的な分析はどこに行ったのだ。科学力の欠如による無策がこの2年間続いているが、企業ならば間違いなく倒産に至っているような対策を続けている。

そして、官製報道なのかどうかわからないが、批判を忘れたメディアは、鳴くことを忘れたカナリアのようで、国の衰退を象徴している。また、濃厚接触者が多くなって社会が回らなくなると危機を煽っているが、PCR検査を徹底して自主隔離を5日ほどに短縮すれば、自主隔離をして働けなくなる人は半分以下になるはずだ。

検査を徹底して経口薬を速やかに投与すれば、重症者も減るはずだが、なかなか経口薬にはアクセスできないようだ。社会が回らなくなるというよりも、社会を回せなくするようなヘボ施策をしていると言った方が正しい。

北京オリンピックの開会式と東京オリンピックの開会式を比較すると、日中の科学力の差が歴然となると思う。ぜひ見て欲しい。そしてITやAIの分野での遅れを実感して欲しい。それを含め、日本の科学力の遅れが歴然としている象徴の一つが、私が十年以上にわたって指摘している医薬品貿易赤字だ。

コロナワクチンや抗体医薬の輸入で予測されたとはいえ、医薬品貿易赤字は昨年度より約1兆円増えて3兆3000億円を超えた。2010年度と比べると医薬品の貿易赤字額は3倍となっている。今の日本の在り方では、さらに増え続けるだろう。そして、貧しい国となった日本は、再び世界で新感染症が流行しても、ワクチンも手に入らない国になっているかもしれない。

まるで、世界を、米国を知らないまま、彼我の差も認識できず、真珠湾攻撃に突き進んだ80年ほど前の日本を見ているような気がする。

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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。