無意味な規則遵守が生産性を低下させている

井原西鶴の「武家義理物語」では、青砥藤綱は、川に落とした小銭を見つけるのに、多くの人足に大金を与えて働かせたのだが、人足の一人が自分の小銭を偽って差し出すという不正な行いをしたため、その人足を裸にして、97日間かけて、本当に小銭を探し出させたのである。他方で、不正を暴いた別の人足は、事情により身をやつした武士であったことが知れて、再び武士に取り上げられた。

町人であった西鶴は、江戸時代の武士を頂点にした身分制秩序に強く拘束されていたのであって、同じ町人身分ものに課された無益な97日間の裸の苦役に批判的であるよりも、逆に、武士の支配を肯定したうえで、その価値観の強制としての懲罰的苦役の賦課に賛同する姿勢を示している。そこに江戸時代の町人文化の限界があったわけである。

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現代日本の組織において、企業であろうが官庁であろうが、全ての組織において、生産性の低さが問題だとしたら、その根本原因は、97日間の裸の苦役の強制のような愚行にあるのだと思われる。前時代の価値秩序に支配された組織は、その旧秩序を守るために、非生産的な職務の遂行を強制することで、新時代へ向けた創造の芽を摘み、革新を阻止しているわけである。

組織は、特に日本の組織は、膨大な数の規則や規定の集積であり、手順書に細かく記載された行動様式の体系であり、書き込むのも面倒な伝票や帳票や定型書式の束である。それらの規則や手順や書式には、原点における意味があったであろうが、時間の経過とともに無意味化しているものも少なくないはずである。

その無意味化した諸規則の遵守を強制することは、常に古い時代へ逆行させ、停滞を招いて進歩を阻害する。生産性の問題は、第一に、無意味な作業が生産性を低下させることであり、第二に、無意味な作業を強制されることが就労意識を低下させることである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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