東京はアジアの最先端ですらない:『寡欲都市TOKYO』

若者評論家の原田曜平氏は『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生』の中で、東京オリンピック後、私たちの生活の「未来」がどうなっていくのか、私たちはどうすべきなのかということを、世界的に見て珍しい「寡欲都市」「サイコーにちょうどいい街」となった「東京」を切り口にして分析しています。その姿は、私たちの印象とはだいぶ異なったものになっています。

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東京はアジアの最先端ですらない

東京はもはや流行の最先端ではなく、アジアの最先端でもありません。ニューヨークやロンドンはもちろん、上海やソウル、台北の後塵を拝しつつあるそうです。

日本の若者、特に女子のファッションやコスメやスイーツ等のトレンドを見ても、ソウルや台北の方が東京よりも早い、あるいは、ソウルや台北のモノが日本で流行るケースのほうが多くなっています。

ただ、そういった流行の最先端という部分さえ諦めれば、あらゆる分野で「満点ではないけど、どれも85点を取れる」のが東京なのだそうです。大きな問題なのは、世界的に見て異常なこの東京の魅力に日本人、もっと言うと、東京に住んでいる人さえもあまり気づいていない点です。

F3al2/iStock

そして、「気張って100点を目指すのではなく、無理なく85点をキープする」気分こそが、日本だけでなく、世界中のミレニアル世代・Z世代に共通する志向性なのだそうです。そういわれると、現在の若者の気持ちがわからなくもありません。

「寡欲都市」は期間限定

また、令和の若者たちは、年長世代とはまったくちがう環境下に生きています。

長らく続いた少子化が招いた超売り手市場である現在、若者は「金の卵」になりました。いや、バブル期以上の「ダイヤモンドの卵」と言っても過言ではないかもしれません。(中略)普通にしていれば普通に就職できますし、普通に給料がもらえる。転職もしやすい。一社に無理してしがみつく必要など、どこにもありません。

一方で、すでに若者ではなくなった人たちの前途はかなり暗澹としたものです。

一方で、大手企業では、中高年になったこの層(「就職氷河期世代」)のリストラに着手しています。大変就職がしづらく、不安定な雇用環境の中を生き、一部は中高年になってから雇用にありつけた人もいるものの、中高年になってからもリストラされてしまう真の「生涯ロストジェネレーション」が高齢者となり、この団塊世代よりもはるかに恵まれていない層を日本社会全体で支えていかなくてはいけなくなるのです。

世代によってまだら模様の日本、そして東京。著者は更なる一極集中後、東京が歩む未来のシナリオは大きく二つあると予想しています。

豊かな社会でも若者は疲弊している?

アメリカの大都市部では若年人口の流出が起きています。NYやLAといったアメリカの大都市に住んでいるミレニアル世代の若者たちは、たいへんに疲弊しているようです。

そんな彼らは一体どうしているのか。そう、住居費をはじめとした生活費や物価が高くなり、人口増により競争が激しくなって住みづらくなった大都市から、郊外や他の地方都市に移り住んでいるのです。なお、これはコロナだから郊外や地方都市への移動が進んだわけではなく、コロナ前から起こり始めたお話です。

物価が上がらず、家賃もそこまで高騰しなければ、東京は若者にとってとても住みやすいと思えてきました。ただし、この前提条件の維持がこれからいちばん難しいのかもしれませんが。

東京という街では、ただぼーっと生きていけます。与えられたものを受け入れ、買うべしと言われたものを買えばいい。朝起きて、働きに行き、帰って眠るまで、何も考えなくてもトラブルなくスムーズにすごせます。それは世界的に見て、決して当たり前ではない環境です。

東京と日本の「未来」に対して過度な期待は捨てて、「未来」に備えて「やるべきこと」を明確にすれば、理由のない不安は減少するはずです。たぶん。