米国はUNIDOに復帰するか

国連はニューヨークに本部を、スイスのジュネーブに欧州本部を有しているが、音楽の都ウィーンは“第3の国連都市”と呼ばれている。ウィーンには北朝鮮やイランの核問題を扱う国際原子力機関(IAEA)、包括的核実験禁止機関(CTBTO)、そして国連薬物犯罪事務所(UNODC)、開発途上国の支援を担当する国連工業開発機関(UNIDO)などの本部を抱えている。

ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO公式サイトから)

国連を財政的に支援しているビッグ・ドナー国の米国は1996年、ウィーンに拠点を置くUNIDOから脱退し、2018年5月にはイランとの間で合意した核合意から離脱し、イランと米ロ英仏中独の間で締結した包括的共同行動計画(JCPOA)を無効と表明した。すなわち、米国は、ウィーンに本部を置く国連機関から脱退し、ウィーンで13年間交渉して合意したイラン核合意から離脱したわけだ。米国は1990年代、ウィーンを舞台に展開された北朝鮮の核問題でも成果を上げることができなかった。米国はウィーン国連外交にはいい思い出(成果)がない。

ところがここにきて雲行きが変わってたきたのだ。米国は26年前に脱退したUNIDOに復帰の気配を見せる一方、イラン核合意問題では、バイデン政権はウィーンで直接、間接的にイランと交渉し、休会中のイラン核協議が再開すれば、米国はイラン核合意に復帰するのではないか、と囁かれ出してきたのだ。

まず、米国のUNIDO復帰についてだ。米国は1996年、「腐敗と堕落したUNIDOは米国が関与する機関ではない」として脱退した。UNIDOは過去、北朝鮮やイランに核開発に繋がるデュアルユースアイテムを秘かに手渡したという疑いがある国連機関で、米国はその後も距離を置いてきたが、そのUNIDOに「米国が再加盟する」という情報が流れている。Foxニュースは、「ウィーン外交筋は米国のUNIDO復帰について騒然となっている」というのだ(「脱退した欧米加盟国の復帰を目指せ」2021年5月20日参考)。

UNIDOは昨年末、8年間事務局長を務めてきた中国の李勇氏が退陣し、その後任にドイツ経済協力・開発相のゲルト・ミュラー氏がUNIDOで初めて欧州出身事務局長として就任したばかりだ。米国がUNIDOに接近しやすい環境となってきたことは事実だ。そのうえ、国連機関に距離を置き、中国共産党政権の“国連の支配体制”を許してしまったトランプ前政権の政策を是正する狙いもあって、米国はUNIDO復帰を検討し出したのではないかというわけだ。

UNIDOは650人の常勤スタッフのほか、1800人のコンサルタントを雇っている大きな国連専門機関だ。アフリカなど開発途上国への影響を獲得するのにはUNIDOは恰好の専門機関だと再評価されてきたこともある。

米国は脱退時、分担金を払わずに出ていった。その遅滞金は10億ドルにもなると推定されている。米国は遅滞金を払ってまでUNIDOに本当に復帰するだろうか。ちなみに、脱退後も米国は2012年以来、米国国際開発庁(USAID)を通じてUNIDOに2220万ドルを支援している。昨年11月末に開催されたUNIDO総会に米国は代表を送り、UNIDOのミュラー新事務局長の就任を歓迎し、「UNIDOは開発途上国の持続可能な経済成長を達成するのを支援する上で重要な役割を果たしている」とエールを送っている。

Foxニュースによると、トランプ政権下で国家安全保障補佐官だったジョン・ボルトン氏は、「UNIDOは効果がない国連機関だ。だから多くの先進国と同様、米国はUNIDOから撤退した。米国がその決定を覆す理由は見当たらない」と語っている。ちなみに、UNIDOにはパレスチナが正式に加盟しているため、米国は実際はパレスチナが加盟した国際組織には資金を提供できない法律があるという。

UNIDOは過去、北朝鮮、キューバ、ベネズエラなどに軍事利用でき、テロ活動にも利用できる資材、技術を提供してきた“前科”がある。ドイツの化学者、ヤン・ガヨフスキー博士(Jan Gajowski)は当方とのインタビューの中で、「北朝鮮には少なくとも5カ所、化学兵器を製造する施設がある。北は過去、UNIDOから不法な化学兵器製造用の原料、機材を入手していた」と警告を発したことがある(「国連機関『デユアルユース品目』拡散?」2021年9月30日参考)。

次はイラン核合意への米国の復帰の動きだ。イラン核協議は昨年11月29日、5カ月ぶりに再開した。イランは米国に合意復帰と全ての経済制裁の解除を要求、そのうえ「核合意から再度離脱しないという公約」を求めだしている。一方、米国はイランに核関連活動を合意の枠内(包括的共同行動計画)に戻すよう要求、双方に歩み寄りの気配はこれまでなかったが、ここにきて楽観的な声が聞かれだした。ウィーンで昨年12月27日に開催された次官級会談では、「数週間後には合意できる」という声が飛び出しているのだ。

イランは米国との長期交渉を願っていない、というより回避したいはずだ。早急に経済制裁を解除しない限り、国内経済は破産状況であり、国民の不満も高まってきているからだ。一方、米国はアフガニスタンの米軍撤退などで国際批判を受けてきただけに、イラン核合意への復帰とイランの核活動の原状回復を実現できれば外交ポイントとなる。ウィーンの交渉が暗礁に乗り上げるようだと、外交に強いといわれてきたバイデン氏の面子も更に傷つく。米国とイランの両者には合意しなければならない事情があるわけだ(「ウィーンの『イラン核協議』の現状」2021年12月19日参考)。

ロシア軍のウクライナ侵攻の危機で米ロは対立している。バイデン米政権は外交でビッグポイントを上げることができるか、アフガンからの米軍撤退の時のように、国際社会の信頼を再び失うことになるか。11月8日に実施される中間選挙を前に、バイデン大統領は外交分野で決断しなければならないさまざまな課題を抱えているわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。