そごうと西武の行方

そごうと西武、誰でも知っているこの二つの百貨店を持っているのはセブンイレブンでお馴染みのセブン&アイ ホールディングス社。そしてこの親会社がもうこの百貨店事業を手放そうとしています。買収したのが2006年ですので15年我慢してもうだめだ、となったわけです。買収を主導したのが鈴木敏文氏とされますが、コンビニでは神のように扱われたのに彼でも間違えたのか、この辺りを考えてみたいと思います。

西武池袋本店(左)とそごう横浜店(右)
Wikipediaより

私は百貨店衰退論を10年以上も前から時折記していました。凋落する業界故に何をすべきかも私なりに提案させていただき、某有名百貨店の社長が当ブログのコメント欄で呟いたこともありました。しかし、あの頃から今に至るまで百貨店が目に見えて変わったわけではありません。というより私にはもう、変わるチカラすらない、余生をファンの顧客層と共にゆったり楽しむ社会慈善事業ではないかとすら思っています。

客が集まるのはデパ地下、そして北海道物産展をやれば黒山の人だかり、だけど、エレベーターで催物会場に直行し、そこから再びエレベーターで直帰、間にあるフロアは完全中抜きではせっかく物産展を最上階でやる意味がどこにあるのか考えてしまいます。

私は百貨店は動物園と同じだと考えています。子供があれも見たい、これも見たいというのと同じでモノが十分にない頃、あるいは次々と欲しくなるようなものが生まれていた70-80年代までは様々なフロアをゆっくり時間をかけて見物する楽しみがあったのです。

しかし、同じ動物園方式でも上手にビジネスをしているところもあります。IKEAです。あの店舗に行かれたことがある方ならすぐわかるでしょう。2階に上がるとそこからスタートする迷路のような通路の両側に様々な部屋があり、「IKEAのある生活」を演出しています。家族連れはソファに座り、メジャーで長さを測り、スマホで写真を撮りながら談義を重ねます。違いは何か、といえば店の主張が明白に顧客に伝わるのです。

しかし、今、多くの百貨店は百貨店が直接運営しているとはいいがたい状態です。多くの店はテナントであり、テナントが大家の百貨店のルールに従って店舗づくりをしています。そしてその販売は「消化仕入れ」が主体。つまりテナントがその店舗で商品を売った時点で百貨店の仕入れとなり、一定額を百貨店へ支払います。このビジネスのやり方は百貨店の都合であって顧客目線でもないし、テナント目線でもありません。しかし、この珍妙な手法が崩せないのです。

私なら消化仕入れ型の百貨店ビジネスを止めて都心型のショッピングモールに変えてしまいます。モールは定期借地権型の契約ですので様々な変化対応が可能でしょう。ではなぜ、百貨店は変われないのか、私の想像ですが、外商と「友の会」の縛りではないかとみています。共に強力なファン層によって支持されています。外商の売り上げは百貨店により差がありますが、全体の2割程度とされます。友の会は積み立てで1年間の支払いで13か月分の商品が買えるので概ね8%程度のリターンを提示しています。結局、古い上客を大事にする間に多くの一般客が流出したとも言えます。

鈴木敏文氏は何を間違えたのでしょうか? 日経に鈴木氏の考えを示すこんなくだりがあります。「社会階層によって消費が異なる米国などと違い、日本では一人の顧客が必要に応じて百貨店、専門店、スーパー、コンビニエンスストアなどを使い分ける」。セブン&アイが買収した2006年の時点であってもこの考え方が正しかったか、私には疑問が残ります。使い分けに見えるけれど消費者の真意ではなかったのです。買い物が面倒くさいからどこか手軽なところでまとめてくれ、というのが消費者のメッセージだったのではないでしょうか?繁華街にある百貨店、駅のそばにあるスーパー、家のそばにあるコンビニ、そして今では家の中にあるパソコンからネットショッピングです。つまり、消費者の不精ぶりが確実に進化しているのが如実に表れているのです。

百貨店を歩くのは疲れます。なぜなら同じような商品が大量にありすぎて選べないのです。同様に家電量販店もしかり。しかし、ショッピングモールは疲れません。目的の店がようやく見つかったという楽しみがあるのです。つまり顧客目線からすると真逆なのです。これが最大の違いです。

前述のIKEAも1階のマーケットホールと称する小物売り場で迷路をぐるぐる回るとようやく自分のお目当てのセクションに来ます。「あぁ、ここよ」と思わず口から出てしまう方も多いでしょう。しかし、デパートの服飾売り場はそのフロアに着いた瞬間にどこを目指してよいか悩んでしまい、「端から順番に行くか」と気を引き締め、店員の熱い目線をかわしながら商品をチラ見してお目当てを探すという難攻の末、「あぁ、疲れちゃった」となるのです。

西武百貨店とそごうが売却された暁には買い手は全く違うビジネスを創造してもらいたいと思います。西武は旗艦店が池袋。その駅の反対側では東武百貨店が変わり、池袋西口が完全変貌します。その勢いに圧される前に旗艦だか軍艦だかわからないあのコンクリートの構築物をどうにかしてもらいたいと私は切に願っております。三井と三菱が触手を動かしていると聞きます。デベロッパーのセンスに期待しましょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。