こんにちは。
先週の木曜日から金曜日にかけて、アメリカの株式市場で異常な動きが続きました。
前例のない2日続きの大型株乱高下
まず、2月3日には、昨年末に社名をメタ(正式にはメタ・プラットフォームズ)に変更したフェイスブックが暴落し、たった1日でS&P500採用銘柄中90%以上の企業の時価総額より巨額になる2370億ドルを失うという大波乱がありました。
直前に発表した2021年第4四半期決算の内容があまりパッとせず、創業以来初めてアクティブユーザーの人数が減少に転じたことが嫌気されたと言われています。
それにしても、時価総額の4分の1以上を1日で失うほど大きな問題を抱えている企業には見えなかったので、市場の混乱は並大抵ではありませんでした。
上のチャートでもご覧いただけるように、去年の9月初めに史上最高値を付けてから、小波動ごとに下値を切り下げる展開が半年近く続いたあげく、この大暴落となったのです。
1月末からはやや上向きに転じた印象があっただけに、決算開示後のメタ大暴落はかなり経験を積んだファンドマネジャーたちにとっても想定外の事態だったと思います。
そして、その翌日、今度は直前に開示した決算がまあまあの内容だったアマゾンが、こちらは急騰となりました。
2月4日の終値ベースでは、前日比13.5%増の3153ドルとなり、その後の時間外取引では3171ドルまで続伸しました。
直近5営業日だけの株価推移を見ますと、前日だけはメタの大暴落に引きずられて下げていますが、1月中旬に下げたあとの回復過程からメタよりしっかりしていた印象があります。
3日にメタが失った時価総額も、4日にアマゾンが増やした時価総額も、1銘柄の1日の時価増減額としては史上最大だそうです。
27兆円とか25兆円といった数字は、国家予算以外ではあまり見かけないので当然かもしれません。
さて、アメリカを代表する株価指数であるS&P500株価指数は、今年の年初からどんな動きをしていたのでしょうか。
1月最終週にいたって、やっとそれまでのほぼ一本調子の下げから回復の兆しが見えてきた矢先の、藪から棒の乱高下だったわけです。
結局、4日のアマゾンが牽引した0.5%の上昇では、3日のメタが足を引っ張った0.85%の下落を取り戻すことはできませんでした。
なんだか、いつか見たことがあった景色だなあという気がします。
今年初の営業日だった1月3日にいともあっさりと史上最高値をつけてから、「もう4800台突破は時間の問題、今年中に5000の大台乗せもあるかもしれない」と強気筋が張り切る中でずるずる下げてきた経緯を見るにつけても、思い出したことがあります。
日経平均が3万9000円まであと85円に迫って、日本株関係者のみなさんがほぼ例外なく来年は4万円の大台乗せと期待しながら大納会を終えた、1989年末から翌1990年年初の雰囲気によく似ているのです。
史上最高値更新後の下げ幅としては、1990年年初の日経平均に比べてずっと小幅ですが、でも非常に気がかりなことがあります。
ハイテク株は、軒並み過去30日間で値下がりしている
次の表のうち、とくに右端の過去30日間の株価推移の欄にご注目ください。
30日間で値上がりした銘柄や品目は薄緑、値下がりしたほうはピンクのシェードになっているのですが、ご覧のとおりサウジアラビアの国営石油会社アラムコと、ウォーレン・バフェット率いるコングロマリット、バークシャー・ハサウェイ以外は全部値下がりしています。
つまり、これまで延々とアメリカ株の好調を引っ張ってきたハイテク・情報通信・ネット関連株が全滅だったということです。
もちろん、値下がり幅にはかなり大きな差があります。
こちらは、去年の大晦日、12月31日の株価を基準にしてそこからの変動率を示したグラフですが、代表的なハイテク7銘柄すべてが、値下がりしています。
もちろん、グーグル(上場持ち株会社名としてはアルファベット)のように0.58%の下落で済んでいる企業もあれば、メタやネットフリックスのように30%以上下がっている企業もあります。
下げ幅を1ケタに抑えられたグーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフトは勝ち組で、2ケタになってしまったエヌビディア、メタ、ネットフリックスは負け組と言ってもいいかもしれません。
ただ、ハイテク・情報通信・ネット関連の大手が軒並み年初来丸1ヵ月を過ぎた時点で値下がりしているという事実の重みは、かなり大きいです。
米国株はあまりにもハイテク偏重の値上がりをしてきた
というのも、こうした分野の株が急上昇を続けていなければ、アメリカ株とその他全世界の株のパフォーマンスはあまり大きく違わなかったはずだからです。
一目瞭然と言えるでしょうが、S&P500が世界中の主要な株価指数の中で突出した実績をたたき出した要因の大半は、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、アマゾン、ネットフリックス、グーグルといったハイテク大手の長期にわたる株価高騰にあります。
これらの銘柄が下がり始めたとき、とって代わるような銘柄群があるかということになると、実際のところお先真っ暗です。
言うまでもなく、新興企業の中には何年か急成長を続け、株価もそれを反映して高くなる企業があるでしょう。
しかし、そうした企業の時価総額は微々たるもので、何十どころか何百も出てこなければ時価総額が巨額に達しているハイテク大手の値下がりによる時価総額の激減を埋め合わせることはできません。
とにかく、ほんの一握りの巨大企業だけが業績も株価も好調で、中堅以下の企業群は置いてけぼりというのは、危険この上ない状態です。
あまり耳にされる機会はなかったと思いますが、アメリカの株価指数の中で、ヴァリューライン社という企業が集計している幾何学平均株価指数というものがあります。
全米の上場企業の中から1700社弱を選んで、その全株価を掛け合わせ、話をかんたんにするためにぴったり1700社だったとしたら、1700乗根をはじき出すというとても手計算ではできない作業をしています。
この幾何学平均には、足し合わせて銘柄数で割る単純算術平均や、それに時価総額によるウエイトをかけた加重平均にない特徴があります。
全体の中でちょうどまん中あたりのパフォーマンスをした銘柄の値動きとよく似た数値を出すことです。
その幾何学平均とS&P500株価指数が、最近かなり違う動きをするようになっています。
去年の6月ごろまではほとんど同じ波動を示していました。それからは、S&P500が伸びつづけていたのに対し、幾何学平均は11月まで横ばい、その後は下落へと転じています。
もっと長い射程で見ても、この印象は変わりません。
双方の過去20年間の動きを比べたグラフですが、ほとんどの局面で山と谷がほぼ一致しています。
なお、変動幅は幾何学平均のほうが大きく感じるのは、こちらは縦軸が実数目盛りで、S&P500は対数目盛りだからです。同じ目盛りを使えば、S&P500のほうが変動幅は大きいです。
やはり、大きく方向性が違っているのは、去年の春以降だけです。
S&P500は一貫して強気で上昇し、幾何学平均は横ばいから下落に転じています。私は、幾何学平均のほうが実体経済に即した動きをしていると思いますが、みなさんはどうお考えでしょうか。
時価総額の集中は危険信号
さらに不吉なのが、現在時価総額トップ5社のS&P500に占める時価総額シェアが4分の1近くに達していて、これは1980年代以来絶えてなかったことだという事実です。
1980年代以降の米株市場では、トップ5社の時価総額シェアが14%に達すると注意信号、24%超えは完全な危険信号と言って警戒してきました。
実際に、1999年にこのシェアが16.6%に達したあと、2000~02年のハイテク・バブル大崩壊が起きました。
そして、2008年にこのシェアが14.0%に達したのは、サブプライムローン・バブルがもう崩壊しはじめた時期でした。
それに比べて、1960年代半ばから70年代末までは、ひんぱんに20%を超える高いシェアになっていたのに、とくに問題はなかったという印象があります。
つい最近まで私も、当時はまだアメリカ経済の基礎構造が現在よりずっと堅牢だったので、目立った弊害はなかったのだろうと思いこんでいました。
ところが、改めてS&P500株価指数の超長期の動きを確かめてみて、この印象がまったく間違っていたことに気づきました。
新聞の大見出しになるような大暴落こそなかったものの、1968~82年の米株市場は延々と下げつづける長期のベア相場だったのです。
当時アメリカ株の時価総額トップ5社はどんな面々だったのかをチェックしてみました。
まずGEやGMのように、業界首位の座にあぐらをかいて自社製品の品質向上努力が足りず、そのうち日本をはじめとする諸外国企業に国内市場を丸ごと席捲されてしまう重厚長大型製造業各社です。
第2に、固定線電信電話のAT&T、メインフレームコンピューターのIBM、カメラ写真フィルムのコダックなどガリバー型寡占状態が続いて、自社の技術優位を維持する努力を欠いていた企業群です。
最後に、OPEC諸国による供給抑制で棚ぼた的な利益にあずかっていたオイルメジャー各社です。
どれも図体の大きな企業だっただけに、これらの企業が衰退していく過程では新興企業がどんなに急成長しても時価総額に差がありすぎるので、米株全体としては低迷が続いたわけです。
現在我が世の春を謳歌しているハイテク大手各社も、技術革新のスピード自体が上がっているだけに、あっという間に上述の3グループのように衰退していくのではないでしょうか。
ハイテク大手にも凋落の兆しあり
そう考えるについては、根拠があります。
次のグラフをご覧ください。表面的にはハイテク大手がいかに儲かるかということだけを示しているように見えます。
とにかく、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックにとっては、世界中でもっとも売上の大きな企業500社の平均純利益の7~12倍といったとんでもなく巨額の純利益が定位置という感じです。
ただ、長年にわたってオフィス用PCアプリのパッケージ販売とそれにまつわるメンテナンスでガリバーの座を維持してきたマイクロソフトは、近年やや純利益額倍率が低迷気味でした。
それに比べて、グーグルとフェイスブックは、売上規模ではマイクロソフトに比べてかなり小さかったころから、マイクロソフトに迫る純利益をあげ、グーグルの場合過去5年間はマイクロソフトと互角の勝負をしています。
グーグルとフェイスブックは基本的にまったく同じビジネスモデルを採用しています。
一見、両社にとって顧客に見える利用者がタダで提供する膨大なデータを、ほんものの顧客であるインターネット広告を出稿する企業に売っているのです。
タダでカモ(失礼、利用者でしたね)が提供するデータを高く売れるのですから、こんなにいい商売はありません。
違いはカモを狩り集める猟場が検索エンジンか、ソーシャル・ネットワーキングかというところだけです。
それに比べて、実際にオフィス用アプリを開発し、製品化して売る商売をしているマイクロソフトは、やはり利益率の面で分が悪いようです。
最近、純利益額でグーグルに抜かれそうになったときには、リンクトインというこれまた同じネット広告業態の中堅企業を買収してテコ入れしました。
マイクロソフトの場合、製品のハード部分はほとんどあってなきがごとき軽量級です。
でも、アップルのように製造業のルーツにこだわる企業にとっては、グーグルやフェイスブックがなんの製品も造らず、タダでかき集めたデータを売るだけで高い利益率を得ているのは、腹が立ってしょうがないでしょう。
最近になって、相変わらずデフォールトオプション(初期設定)はデータだだ洩れでも、アップルのiフォンを使う消費者はデータ収集を拒絶することができるようになりました。
これはやはり、タダ取りデータ販売で巨富を得ているネット広告業者に対するアップルのリベンジだと思います。
実際に決算説明会でも、アップルの新方針によってフェイスブックは100億ドルレベルの逸失利益があったと述べたようです。これが2月3日の大暴落の最大の原因でしょう。
そして、フェイスブック最大の弱点は、ほかのハイテク大手各社がそれぞれの主戦場でガリバーとして君臨しているのに、同社はインターネット広告業界では、グーグルにかなり差を付けられた2位にとどまっていることです。
第2の収益源として期待していた映像配信のインスタグラムも、ティックトックやスポティファイなどとの競合が激しく、なかなか急成長はむずかしいでしょう。
まだ海のものとも山のものとも見極めがつかない仮想現実のメタヴァースにのめりこんでフェイスブックからメタに社名まで変更したのも、こうした焦りがあったからだと思います。
そして、株式市場がこの多角化戦略を否定的に見ていることが、大暴落の第2の原因なのではないでしょうか。
現在の米株市場にとってハイテク大手企業群が本丸だとすれば、メタの大暴落は二番櫓か三番櫓が陥落したと言えるくらい大きな衝撃のある話です。
好収益はすでに十分過ぎるほど株価に織り込まれていますから、これで成長展望が世間並みとか、むしろ縮小に転ずるとかとなったら、反動は大きいでしょう。
メタは、米株全体を引っ張り上げる力はないでしょう。それでも、引きずり下ろすほど大きなお荷物になる可能性はある企業だと思います。
とどめの暴落要因は好調な商品市況
もうひとつ米株市場の先行きについて懸念すべきことがあります。
世界中で一斉に「地球温暖化を防ぐため」と称して化石燃料の利用を大幅に削減しようとしたため、「再生可能エネルギー源」がまったく実用に堪えないしろものだとわかっても、すぐには供給が回復せず、エネルギーを中心に商品価格が急騰しています。
インフレ論者のみなさんはモノの値段が上がるのは景気に好影響を及ぼすと信じていらっしゃるようですが、まだ雇用も勤労所得も消費も回復していないうちに商品価格ばかりが上がるのは、経済にとって悪影響しかありません。
これまで、ビジネスサイクルの底から1年半の商品価格の回復率で首位を維持していたのは、1929年の大恐慌からの1933年までの回復過程でした。
ところが、まだ雇用も所得も消費も回復していないうちに原材料や中間財の価格まで高騰してしまったために、多くの製造業者がコスト上昇分を消費者に転嫁できず、やっと回復に向かいかけたアメリカ経済はさらに深い底となる1936~37年へと落ちこんでいったのです。
今回のコヴィッド騒動による2020年春からの回復過程でも、2020~21年の厳寒でエネルギー需要が激増したにもかかわらず、太陽光発電や風力発電で稼働率がそうとう長いこと0%にとどまる地域もあり、原油、天然ガスから石炭にいたるまで化石燃料価格が暴騰しています。
こういう状態でコスト高を吸収せざるを得ない企業は、上場規模であっても存続の危機に立たされる企業が増えるでしょう。
最後に、なぜ米株市場崩壊の危機はすぐそこまで来ているのではなく、もう始まっていると考えるのかの根拠をご説明しましょう。
S&P500こそ今年最初の営業日まで上げていましたが、ハイイールド(ジャンク)債は去年の10月半ばから、そして米国10年債の実質金利は11月初旬から弱気に転じていました。
債券の場合、金利が上がる(現状ではマイナスが小さくなる)のは同じ金利収入を得るためにかけなければならない元手が少なくて済むわけですから、金融商品としての価格は安くなることを意味します。
つまり、去年の秋からもう米株市場の値上がりは、債券市場から避難してきた資金の流入によって支えられていたのです。
ジャンク債も米国債も12月中は反騰の気配を見せましたが、今年に入ってまた大きく下げています。そして、債券市場から株式市場に流入する資金量は、かなりの高水準に達しています。
1月31日から2月4日の週も、株式市場への流入資金が200億ドルを超えたと報道されています。
本来であれば、これだけの資金が入ってきた当座は上げて、そのあと急落するはずですが、今回はこれだけの資金を吸収しながら、株式市場も債券市場に連れ安しています。
資金の流入を見ていても、もう少し上がるのを待たずに早く手仕舞っておこうとする株式投資家が多いのでしょう。
つまり、1990年代以来世界の株式市場をほぼ独力で引っ張ってきた米株市場はもうすでに崩壊過程に入っているというわけです。
編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。