クーデター以降のミャンマー情勢 --- 福井 望海

iktorcvetkovic/iStock

2021年2月1日にミャンマーで軍事クーデターが発生し、選挙で選ばれたアウン・サン・スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が政権の座を追われて10ヶ月が経とうとしている。

クーデター発生直後は、日本でもミャンマーに関する多くの報道が見られたが、混乱を極めるミャンマーの状況に反して、国際的な関心は薄れてきている。関心を持ち続けることは日本にいる私たちにとってできることの一つであり、ミャンマーの平和な未来を支持する有力な手段である。

そこで本記事では、2月のクーデター以降のミャンマーでの主な出来事を月毎にまとめ、これまでの情勢変化を振り返る。

<2021年2月>
1日にミャンマー国軍による軍事クーデター発生。「国家統治評議会」設立。これとほぼ同時にクーデターや国軍の武力を用いた弾圧に反対する市民らによる平和的な「市民不服従運動(CDM)」も開始。

<3月>
国軍の弾圧によるデモ参加者の死者数510人を超える。

複数の少数民族武装勢力が反国軍の姿勢表明、抵抗開始。また民主派勢力「連邦議会代表委員会」が「連邦民主憲法」を制定し、「統一政府(NUG)」の設立検討。公務員などに対して、さらなるCDMへの参加を呼びかける。

<4月>
16日、民主派勢力の連邦議会代表委員会が統一政府(NUG)設立。

国際的には、アメリカが国軍系企業とその幹部らに対して、経済制裁を開始。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)が国軍に対して暴力の即時停止を求めた。(実質的な効果はなし)

<5月>
17日時点で、市民の犠牲者は802人にのぼり、4120人が拘束された。

民主派勢力が「人民防衛隊(PDF)」を設立し、国軍に対する組織的な武力抵抗を開始。警察などを含む国軍に対する攻撃が増加。

国際的には、アメリカに加え、イギリス、カナダが国軍関係者への追加制裁を発表。

<6月>
NUGがロヒンギャに対して、市民権の付与、ロヒンギャ難民の早期帰還、ICCによる虐殺に関する捜査を約束し、国内の少数民族を含む団結をアピール。

国際的には、国連総会でミャンマーへの武器流入を防ぐ決議が採択された(拘束力なし)。

<7月>
26日、軍事評議会は10月の総選挙に関して、民主派政党のNLDの不正などを理由に、無効であると発表。

<8月>
8月時点で、合計1500人の元兵士がCDMに参加。また18日時点で、市民の犠牲者が1000人を超える。

2日、ASEANは、ブルネイのエルワン第2外相を特使に任命。

<9月>
7日、NUGは国軍に対して「自衛のための戦争」を開始すると宣言。

<10月>
国軍のASEAN特使の受け入れ拒否を受けて、ASEAN諸国はミャンマーを首脳会議に招かないことを決定。これに対し、国軍はヤンゴン市内の政治犯5600人の解放を発表し、国際社会への歩み寄りをアピール。

ミャンマー国内で国軍支持のデモが増加している模様。

<11月>
アメリカの元国連大使、ビル・リチャードソン氏とミン・アウン・フライン国軍司令官が会談。このほかにも日本財団会長の笹川陽平氏や、中国外交部の高官、タイの外相らとも会談。(これらの会談に関して、アメリカ、日本、中国、タイは国の代表としての訪問ではない、もしくは訪問について公式に発表していない。)

22日時点で、市民の犠牲者は1281人を超える。一方で、PDFによる国軍への攻撃も激しく、クーデター以降、国軍に任命された地方行政官200人以上が殺害された。

2月から11月までの主な出来事を振り返ると、ミャンマー情勢において今後特に注目すべき点が見えてくる。

 1. 国軍対PDFを中心とする民主派部隊の戦闘の激化

クーデター以降、市民の間ではCDMの一環として、平和的なデモが行われてきたが、少数民族武装勢力に加え、武装化した民主派の市民たちが各地で部隊を形成し、国軍に対抗している。特に、北西部チン州、北部ザカイン管区、中部マグウェイ管区で戦闘状況が激化している。

少数民族武装勢力はクーデター以前から各地で存在しており、国軍の弾圧を長きにわたり受けてきた。今回のクーデター以降、多くの少数民族武装勢力が民主派への支持を表明し、PDFとも協力し、国軍に対抗している模様である。

2.  ASEANによるミャンマー情勢への介入の試み

ASEANはこれまで地域機構として、内政不干渉を掲げ、国家内の事情には一貫して関与してこなかった。しかし、今回のミャンマーのクーデター及び内戦に関しては、4月時点で国軍に市民への暴力の停止を求める声明を出している。

また、8月にはミャンマー特使をたて、国軍と民主派の間の橋渡しや紛争終結に向けて積極的な姿勢を見せた。これらは実効的な効果は未だあまり見せておらず、現時点では「試み」程度にとどまっているのが現実だ。しかし、10月のASEAN首脳会議でミャンマーが招待されなかったことに対する軍事政権の反応を見ると、ASEANには交渉の余地があると見ることができるだろう。

またこれまで内政不干渉という名のもと、加盟国各地での人権問題に踏み込んでこなかったことを鑑みると、今回ミャンマーに干渉し始めていることはASEANにとって大きな変化である。

3. ミャンマー国内における人道状況の悪化

国連などの報告によると、2022年にはミャンマー国内の貧困層が倍増し、国民の半数近くが飢餓に直面する危機にあると警告している注1)。また2021年10月時点で、今年、世界全体で治安部隊により殺されたデモ参加者のうち、およそ60%がミャンマーで起こっている注2)。それだけミャンマー国軍による弾圧は暴力的かつ深刻であるのだ。

クーデター以降、ミャンマー市民の多くが食糧や安全、居住などの基本的人権に関わる部分で重大な危機に晒されている。長引く内戦状況や国軍による圧政により、今後も多くの一般市民が人道的危機に晒され続ける可能性は高い。

また、日常生活の危機に加え、少数民族武装勢力支配下の地方では特に戦闘が激しく、一般市民が戦闘に巻き込まれ、国軍により非人道的な扱いを受ける事例が多発している。国軍に拘束された後、戦線の最前線に立たされ「人間の盾」として使われ犠牲となった市民や、国軍兵士による酷い拷問ののち死亡した市民など、多くの事例が報告されている。

このような非人道的な国軍の態度に対して、国際社会は十分に対応することができていないことも問題だ。これらの国軍の組織的殺人、拷問などの行為は今後、人道に対する犯罪として裁かれる可能性もあり、国際社会がこのような人権侵害に対してどのような態度をとっていくのかも注目する必要がある。

福井 望海
特定非営利活動法人インターバンド 学生インターン・調査研究担当(Philipps – Universität Marburg, MA in Peace and Conflict Studies)

【参照】
注1) “Impact of the Twin Crises on Human Welfare in Myanmar”, UNDP, 01 December, 2021
注2) “DEADLY DEMONSTRATIONS: FATALITIES FROM STATE ENGAGEMENT ON THE RISE”, ACLED, 21 October, 2021
*他、各報道からの情報