北京オリンピックが開幕した。本来、オリンピックはスポーツの祭典。参加された世界のすべての選手、なかんずく日本人選手が自身の持てる力を思う存分発揮して良い戦いをして頂きたいし、毎日応援していきたい。
この北京大会は政治的な意味で記憶される大会になるだろう。ウィグルの人権問題などから主要欧米諸国は軒並み政府代表を送らない”外交ボイコット”状態である。日本も政府関係者は送っていない。
開会式に来た首脳級は、ロシア(プーチン大統領)やサウジ、パキスタンや経済協力で関係の深い中央アジア諸国やアルゼンチンなど。ざっくりいって、権威主義的な国と中国の経済的影響力下に取り込まれた国々である。オリンピックは平和の祭典であり世界協調の象徴であるべきなのであろうが、世界が民主主義国と権威主義国に分断されていることを如実に感じるラインアップだ。ウクライナ情勢も緊迫している。
なかでも最も重要なのは、間違いなく中露首脳会談だろう。習近平国家主席とプーチン大統領は、長時間会談を行い、欧米中心の民主主義勢力に対する対抗姿勢での結束を深めた。ウクライナにおけるロシアの主張を中国は支持し、台湾についての中国の立場をロシアは支持した。ウクライナ情勢と台湾はさらに一層連動する様相を強めたといえる。
今まで、中露の「連携」というのは、「便宜的結婚」と言われてきた。今回のウクライナと台湾についての立場の相互支持もむろん、利害が一致するからやっているのだが、「便宜的」では片づけられない深い連携の理由を確認しあったのではないかと私は懸念している。それは、米国主導の自由民主主義秩序を変えることについての合意である。
米国の世界覇権を弱体化させ、中国やロシアのような権威主義的な国がそれぞれの領域(シマ)でそれぞれ独自の文化や伝統に基づく統治を堂々と行う世界を作るということである。米国の1極支配ではなく多極世界を志向する。(もしかしたら、中国は中国の1国覇権を夢見ているかもしれないが)。内政干渉もなし。
その際、自分が「領土」として良い地域は現在の「欧米主導によって勝手に作り出された国境線」ではなく、「本来あるべき領域」まで力によって拡張することも許されるという世界観だ。大まかにいって、それは民族的な繋がりと地政学的に安心安全を感じられるかという観点と歴史的な帰属状態によると考える。
民主主義は問題がいとして、人権や自由の許容度は国家により異なるものとの根本思想がある。個人より集団、国家(統治)が優先されるべきとの前提が共通している。中露からすれば、欧米が標榜してきた「民主主義」や「人権」などドグマの最たるものなのだ。中露からすれば、台湾は当然中国に帰属させるべきであり、ウクライナはロシア領とまでいわずともNATO加盟は絶対阻止しなければならない。
ロシアは実は軍事大国であってももはや「帝国」の資格はない。経済規模はイタリアや韓国と同等であり、人口は日本に毛が生えた程度である。ただ領土は世界最大であり、軍事力を使うことを厭わない。
中国は、近々世界最大の経済大国となり、人口も世界最大、領土は世界第2位、軍事力も太平洋では米国を凌駕する勢いであり、技術力も米国に急速に追いつこうとしており一部では追い抜いている。中国は十分に現在の米国の地位を狙う「資格」(村上春樹風)があるのだ。その中国とロシアが組むことは日本にとっては悪夢だ(米国にとっても)。
さて、現在緊迫の度合いを増しているウクライナ情勢はどうなるのか。これは他人事ではない。ウクライナの決着は、そのまま台湾に跳ね返ってくると肝に銘じる必要がある。ロシア軍が10万程度ということは、キエフまでいくつもりはないということだろうし(ウクライナ全土を占領するつもりなら40万から50万は必要とされる)、東部だけなら侵攻して成功する可能性はなくはないだろうが、ロシアの本音はウクライナを脅し上げて、NATO加盟を阻止することではないだろうか。
米国もチェコやポーランドに数千単位の兵を送ってはいるが、この規模では本気で戦うつもりはないのだろう。両国ともエスカレーションラダーを上げながら自国の主張を飲ませようとしている。「計算違い」による衝突を避け、なんとか折り合いをつけ軍事進攻は抑止しなければならない。
そうでないと、ウクライナ侵攻したロシア軍を排除できずそのまま東部が事実上のロシア領になるなどということとなれば、すなわち、習近平国家主席は、米国が「力による現状変更」を受け入れるという前例とみなすだろうからだ。
台湾については、中国は圧倒的なパワーバランスを中台、米中間で作り出し、その圧倒的パワーバランス差を背景に台湾に対する認知戦により台湾に「やる気」をなくさせ、「戦わずして勝つ」ことを目指していると思うが、しかし、軍事力による侵攻が国際社会において許されることになれば、もっと早く軍事進攻による奪取を考えたとしても不思議ではない。
なお、開会式の「演出自体」は掛け値なしに素晴らしかった。2月4日の春節に合わせた「春」から始まり全編「雪の結晶」のモチーフが効果的に用いられ、平和や協調といったメッセージがクリアに伝わったし、洗練され、簡潔で、光とドローンを駆使した技術力の高さも見せつけた。チャン・イーモウ監督が監修したそうだが、さすがだ。
こういうのは、やはり一人の人に任せないとダメなのだとしみじみ思ったところである。東京オリンピックは、直前のスキャンダルによるゴタゴタが響いたのであろうが、「船頭多くして山に登る」の感しかなく、正直、残念な出来栄えだった(オリジナルの演出が見たかった)。実際、一人の演出家に任された東京パラの方の開会式はとても良かった。
そのような美しく感動的な演出は一見とてもユニバーサルな価値を標榜しグローバルスタンダートに見える。
しかし、その中にも、台湾のことを「中国台北」と呼んだり(NHKアナウンサーが「台湾です!」と言っていたのと好対照)、2020年6月の中印国境軍事衝突にて「勇敢に戦い負傷した兵士」が聖火ランナーにしたことに反発したインドが政府代表を送らない「外交ボイコット」を直前決定し、ウィグル人権問題に対する非難を意識してだろう、最終聖火ランナーにウィグル族選手を持ってくるなど、少なからぬ「政治的仕込み」も見られた。
ちなみに、韓国では、少数民族の中に韓服を着た人がいたことが今問題になっているらしい。韓国は中国の一部だったという「東北工程」捏造のたくらみの一環とのこと。一筋縄ではいかない国と日本は隣り合っている。
日本は、中国、ロシア、北朝鮮という世界の中でも安全保障上やっかいな国々と隣接しているのだ。中露連携も北朝鮮が中国と連携することも、日本にとっては望ましくない。
敵をを減らし(敵の勢力は分散させ)、味方を増やして敵よりも優位な立場にいるようにすることが外交の要諦だ。日本自身の防衛力の抜本的強化と日米同盟を中心に多くの国と連携を深めること、そして中国ともロシアとも北朝鮮を連携させないそれぞれとの外交が必要だろう。
編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2021年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。