北京冬季五輪大会開会式で聖火リレーで最後のランナーとなった2人のうちの1人、新疆ウイグル自治区出身のジニゲル・イラムジャン選手(20)の「その後」が気になっていた。海外中国メディア「大紀元」によると、同選手は大会2日目の5日、クロスカントリーの女子スキーアスロン競技に参加した。結果は43位に終わった。その後、メディアの取材エリアを通過することが参加選手には義務付けられていたが、同選手はそこには現れずに姿を消したという。多分、欧米メディアから取材されるのを恐れた中国側が同選手を別のルートから逃避させたのだろう。
イラムジャン選手が冬季五輪大会開会式のハイライト、聖火の最終ランナーに選ばれたこと自体、中国側の政治的思惑がみえみえの決定だった。通常聖火最終ランナーになる選手はその国のスポーツ界の英雄や実績がある選手が選ばれるものだ。北京冬季五輪ではスキーアスロンで過去実績があったとはきかないイラムジャン選手が選ばれた。ウイグル人弾圧、人権蹂躙問題が世界のメディアに報じられていることに苛立ちを見せていた中国共産党政権には最終聖火ランナーにウイグル人のイラムジャン選手を使って反論する意図があったのだろう。しかし、その意図は誰の目にも明らかだったこともあって、国際人権擁護グループから逆に激しく批判された。
ちなみに、中国のウイグル人弾圧政策など人権弾圧に抗議して米、英、カナダ、オーストラリア、日本、スイスなどが、「選手の参加は認めるが、政府関係者を開会式や閉会式などに派遣しない」と表明、外交ボイコットを実施したこともあって、開会式前後の習近平国家主席の“五輪外交”は寂しいものとなった。
開会式での聖火リレーの役割が終わったことで、無名に近いスキーアスロンのイラムジャン選手の役割は終わった。そこで欧米メディアは、最終聖火ランナーに選ばれた理由などを同選手から直接聞こうと待ち構えていたが、同選手は5日、競技が終わると姿を消したわけだ。
大紀元によると、聖火の点火を見守る同選手の家族のライブ動画が流れたが、開会式会場から3000キロ以上離れた彼女の実家では、「誇らしげな顔をしている親族や友人らが一緒に感動を分かち合っている」と伝えたという。そのメッセージが事実であることを願うが、画面に映った親族や友人20数人のうち、男性は2、3人しかおらず、ほぼ全員が女性であることから、SNSでは「男性はどこに行ってしまったのか」と疑問を投げかけるネットユーザーがいたという。
中国ではスポーツ選手が突然、姿を消すことがある。中国の世界的女子テニス選手、彭帥(ペン・シューアイ)さんもその1人だった。欧米メディアの激しい追跡報道に懲りた中国側は国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長に同選手とビデオ会談させ、中国前副首相(張高麗)から性的虐待を受けたとの告白後、姿を消していた同選手が無事であることを世界にアピールさせたことはまだ記憶に新しい。
そのバッハ会長は北京冬季五輪大会開催中も中国側の意向に沿って重要な役割を果たしている。同会長は5日、彭帥さんと会見し、8日には北京の首鋼ビッグエア競技場で行われたフリースタイルスキー女子ビッグエア決勝を一緒に観戦している。
そこでバッハ会長にお願いだ。イラムジャンさんと会見し、中国の女子スキー選手の実情のほか、最終聖火ランナーとなった経緯などを聞いてみてほしい。彭帥さんの無事を世界のアピールしたバッハ会長だから、イラムジャンさんとも同じようにリアルなメッセージを聞き出せるはずだ。それが出来れば、評判が芳しくないバッハ会長の株がひょっとしたら急上昇するかもしれない。習近平主席から要請がないからできない、といった弁明は聞きたくない。
なお、大紀元が国際人権組織から聞いた情報によると、北京の冬季五輪大会の競技場から数キロ先に法輪功メンバーたちが拘留されている収容所施設の一部が存在するという。若く健康な法輪功メンバーたちが強制的に臓器摘出されていることはこのコラム欄でも何度か伝えた。バッハ会長、法輪功メンバーが20年以上、中国共産党政権下で非情な弾圧を受けていることをどうか忘れないでほしい(「なぜ法輪功学習者を迫害するのか」2021年7月7日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。