中国の向かうところ

北京五輪から聞こえてくるのは「厳しいルール」という声ではないでしょうか? これは選手のみならず、取材記者からも漏れ聞こえ、完全バブル方式にすることで一般社会と完全に遮断し、北京にいながらどこにいるかわからない状態にしました。感染拡大防止という名目のもと、ペンという剣を持つ世界中のメディアに中国の実態を見せないようにしたわけです。

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今しか知らない世代の人には違和感があるかと思いますが、共産圏では昔からごく当たり前の対応で中国でもその昔は指定エリアしか外国人は入れなかったし、北朝鮮は今でも平壌から外には出られません。

その点でいえば実態をほとんど掌握していないのが中国の下位役人やスタッフで上層部で何が起きているのか、その実態を知ることはまずありません。トップの指示は下に行けば行くほど忖度と厳格化、先鋭化した形となり、異様なほどの神経質さを持って対応します。このスタイルは文化大革命の時も同じで社会体制が変わらない故の社会的損失だと考えています。

日経に「中国不動産、社債の乱高下続く 恒大問題の余波収まらず 住宅販売減、政府の規制緩和期待も」とあります。中国の不動産業界は恒大に限らず、全般的に厳しい状況が続いています。その最たるものが恒大ですが、政府や中央銀行が個別企業対策をとれば他の会社にも同様の「支援」を施すだろうという甘えと期待感が生じるため、思い切った対策がとれない問題を抱えます。

一方、習近平氏としては自身の3期目の就任決定を秋に控え、いくつかの関門を乗り越えなくてはいけません。1つ目が北京五輪を成功裏に終わらせること、2つ目が恒大を含む不動産会社の再建の道筋をつけ、中国国内の経済的不安要素を取り除くこと、3つ目がアメリカとの外交的関係についての長期的ビジョン、4つ目が台湾問題、5つ目が国内政治力学の支配、6つ目が人権問題で食い下がる欧米への対応というところかと思います。

あと半年強でこれだけの問題を片づけるのは容易ではありません。もちろん、政治力学的に習近平氏が反対勢力を抑え込めばほかの課題がどれだけ未達であっても3期目の継投はほぼ決まりでしょう。しかし、求心力という点で崩れ始めればオセロゲームのような状態にすらなりかねません。

中国の本心は中華思想の地球規模での拡大です。例えば宗教が布教を通じて歴史的に世界規模で拡大させてきたように中華共産という思想を世界に広げ、覇権を目指す点については絶対に譲れないところでしょう。一帯一路にしてもアフリカを中心とする各国支援、はたまた東南アジア諸国への影響を深めることもその一環です。そして中国本土はその総本山であり、より神聖なものであるという位置づけをする、これが中国の目指すところです。

これを推し進める人材においてたまたま習近平氏は運と才能とカリスマ性に恵まれたわけで14億人の民をここまでひきつける力があるとも言えます。仮にトップ交代という事態になった時、この支配構造を維持するのは不可能だとみています。

政権が長ければ長いほどその後を引き継ぐ人は労するのは至極当然の原理です。日本では安倍政権のあとは方向感覚がブレたし、ドイツもメルケル首相が退任した後はパッとしません。故にプーチン氏も後継者に引き継げないし、習氏も同様の自壊のサイクルに入りつつあるのです。

習氏はまだ68歳と若いゆえにやる気があればあと10年できるかもしれません。しかし、あと10年しかないともいえるのです。同様にプーチン氏は69歳ですからこの二人がほぼ終身的な指導者となってもさほど先が長くないゲームだとも言えるのです。長期政権が崩れる時、民は蜂起します。蜂起といっても今は剣や銃器を持つわけではなく、今までの抑圧を発散する自由をよりクレバーな方法で追い求めるでしょう。

権力は無期無限ではなく、権力者の力が及ぶ限りという有限性があり、それが次世代に引き継がれない限り一代限りの芝居で終わる公算は以前にも増して高いと考えています。中国の歴史は毛沢東、鄧小平それぞれが過去を否定したわけですから習近平氏もいずれ否定される運命にあるともいえます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月10日の記事より転載させていただきました。