先の論考を読んだ知人から、早速、レスポンスがあった。新型コロナウイルス感染症アドバイザリーボードの発表では、ワクチン接種の感染予防効果が十分維持されているというのだ。発表によると、その多くが2回目ワクチン接種から半年以上が経過したと考えられる。
高齢者においても、10万人当たりの新規感染者数は、ワクチン接種者は未接種者と比較して、1/3から1/20に減少している。2回接種の感染予防効果を計算したところと、70歳代で86%、80歳代では95%と高い感染予防効果が示され、浜松市の公開情報から算出した値とはかけ離れていた。(表1)
また、感染予防効果の推移を検討したところ、デルタ株による感染が主体である12月末までの感染予防効果と、オミクロン株による感染が主体である1月以降の感染予防効果とで大きな違いは見られず、第6波になっても感染予防効果は低下していない。(図)
海外からのオミクロン株に対する2回接種者の感染予防効果は、接種から半年以上経過すると例外なく20%以下に低下していることから、わが国のみ高い感染予防効果を維持している理由が求められる。そもそも、感染予防効果が維持できているのであれば、わが国でこれほどオミクロン株が流行していることを説明できないし、ブースター接種を急ぐ理由もない。
そこで、浜松市と同様に、オミクロン株に対するワクチンの感染予防効果を公表している自治体を探してみた。浜松市のように、1回、2回、3回接種と分けて感染予防効果を検討できないが、広島県の公開情報で、オミクロン株に対する未接種者と1回以上の接種者とで、感染率の比較が可能であった。1回接種、3回接種者も少数含まれるが、対象となるのは大部分が2回接種者と考えられる。
総人口2,773,000人の広島県において、2022年1月1日から1月14日までの期間に新型コロナ感染者は6,328人であった。広島県は、全国に先駆けて第6波が始まったことから、1月以降の感染者は、全て、オミクロン株による感染と見做すことができる。10歳未満にはワクチン接種者がいないことや広島県の提供するワクチン接種者数のデータが、64歳までと65歳以上で分けてあったことから、対象者の年齢を10歳から64歳に限定した。
未接種者、ワクチン接種者数は、それぞれ307,020人、1,425,837人で、感染者数は1,553人、4,775人であった。感染率は未接種者群で0.51%、接種者群で0.33%でありワクチン接種による感染予防効果は35%と算出された。この結果は浜松市における未接種者群、2回接種者群の感染率は0.54%、0.41%, 感染予防効果が23%であったことと近似していた。(表2)
アドバイザリーボードが公開するHER-SYS登録データに基づく解析結果は、わが国のコロナ対策を考えるにあたって根幹を成すものである。
今回、アドバイザリーボードが公開するデータに基づいて算出したワクチンの感染予防効果は、地方自治体の公開情報に基づき算出した値や海外からの報告と大きな乖離がみられた。乖離の原因を早急に解明する必要がある。
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小島 勢二
名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長。1976年に名古屋大学医学部を卒業、1999年に名古屋大学小児科教授に就任、小児がんや血液難病患者の診療とともに、新規治療法の開発に従事。2016年に名古屋大学を退官し、名古屋小児がん基金を設立。