日本におけるオミクロン株に対するワクチンの効果

小島 勢二

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オミクロン株の流行が止まらない。切り札としてワクチンの追加接種が進められており、接種率の加速を図るために、政府は1日100万回接種の目標を掲げた。

3回目の接種率が55%に達するイスラエルの新規感染者数が、世界でも最多であるというニュースに接すると、国民が追加接種に二の足を踏むのも頷ける。私の身近でも、ワクチンが2回接種済みなのに、1人を除いて7人家族全員が感染した例や、3回接種済みの医療従事者が感染した例が発生しており、ワクチンの効果に疑念を抱かざるを得ない。

一方では、海外からは、ワクチン接種から半年以上経過すると、オミクロン株に対する感染予防効果は消失するものの、追加接種によって感染予防効果が回復するとの報告も見られる。コロナの感染情報については人種間の差が著しいことから、日本人のデータが知りたいところである。

今、最も求められているのは、日本人におけるオミクロン株に対するワクチンの効果に関する情報であるが、政府機関やメディアからは、ワクチン接種を勧める広報はあるものの、肝心な効果や副反応ついての情報発信は十分とは言えない。

各自治体のホームページには、コロナ感染者の年齢や性別、重症度などの詳細なデータが公開されているが、ワクチンの接種回数を含めた情報が開示されているのは、静岡県の浜松市のみである。

そこで、浜松市の公開情報をもとに、ワクチンのオミクロン株に対する効果の検討を試みた。浜松市の総人口は、79万5千人で、2022年1月1日から27日までのコロナ感染者数は、3,675人であった。なお、第6波に突入したこの間におけるコロナ感染は、全てオミクロン株によると見做した。

浜松市における各年代の1回目、2回目のワクチン接種率は公開されているが、3回目ワクチンについては記載されていない。そこで、首相官邸ホームページに公開されている2021年12月末の静岡県における3回目ワクチン接種回数に、静岡県の総人口に対する浜松市の人口の占める割合を掛けて、浜松市の3回目ワクチン接種回数を算出し、接種者数とした。

2022年1月の感染者数を対象にしたことから、1月に追加接種によって抗体価の上昇が期待できる前年の12月末日の接種者数を感染率の算定に用いた。なお、この期間の3回目ワクチン接種者の多くは医療従事者であったことから、比較する未接種、1回、2回のワクチン接種者の年齢は20歳から69歳に限定した。

未接種、1回、2回、3回のワクチン接種者数は、それぞれ、65,088人、3,945人、434,848人、4,352人で、感染者数は、348人、17人、1,780人、17人であった。各群における感染率は、0.54%、0.43%、0.41%、0.39%であった。

この結果から、1回、2回、3回接種の感染予防効果は、20%、23%、28%と算出された(表1)。

浜松市(人口795,000人)における2022年1月1日から1月27日のデータに基づく
年齢は20歳〜69歳に限定
接種者数は2021年12月末日の接種率から推定

表2には、ワクチン接種状況における感染判明時の病気の重症度を示す。各群とも、大部分が無症状か軽症で、中等症以上は未接種群では4人(1.1%)、2回接種群では3人(0.17%)で、1回および3回接種群では中等症以上の患者はみられなかった。感染判明時の重症度であるので、その後、病気の進展が予想されるが、第1波から第5波における愛知県のデータの検討では、診断時に無症状、軽症の患者が、その後、中等症や重症に進展することは少数であった。

浜松市(人口795,000人)における2022年1月1日から1月27日のデータに基づく
年齢は20歳〜69歳に限定
接種者数は2021年12月末日の接種率から推定

今回、浜松市の公開情報をもとに、オミクロン株に対するワクチンの予防効果を検討した。3回目の接種者数については、首相官邸ホームページのデータをもとにした推定値なので、正確を期するには、自治体が保有する実測値を用いるのが望ましいが、今回、実測値は得られなかった。

わが国におけるオミクロン株に対するワクチンの感染および重症化予防効果については、期待を煽る報道はされているものの、わが国のデータに基づいた正確な数値が発表されていない。追加接種を推進するには、ワクチンの副反応とともに効果についても早急な情報公開が必要と思われる。

小島 勢二
名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長。1976年に名古屋大学医学部を卒業、1999年に名古屋大学小児科教授に就任、小児がんや血液難病患者の診療とともに、新規治療法の開発に従事。2016年に名古屋大学を退官し、名古屋小児がん基金を設立。