三木谷浩史氏は日本を代表する起業家の一人であり、まだ57歳という若さは孫、柳井、永守という御三家に次ぐ世代です。本来であれば新御三家の一人として、と紹介したいところですが、後に続く人の粒が一回り小さくなってしまい、名前を出しにくい、そんな状況にあります。月並みなら前澤友作氏(46歳)、サイバーの藤田晋氏(48歳)のあたりですが、年齢が更に一回り若いのと事業規模が三木谷氏とは比較になりません。ただ、野望という点では私は藤田氏が次の次に出てくると思っています。
さて、三木谷氏は楽天というオンライン上の商店街からスタートし、なんやかんや言われながらも代表的企業となり、楽天カードは日本でトップレベルのカードに育て上げたのはカードと楽天ショッピングの親和性が非常に高く、それをうまく取り込んだ三木谷氏の指導力の賜物と言ってよいでしょう。
ライバルのアマゾンもアマゾンクレジットカードが存在しますが、足元にも及びません。楽天カードが普及した理由はとにかく誰でもカードが持てる、というハードルの低さが決め手だったと思います。私がかつてレンタカー事業を当地でやっていた時、日本人のお客さんでカード決済する際に承認が取れないケースが圧倒的に多かったのが楽天カードでした。理由は与信枠が10万円といった少額なので海外旅行でホテル代などを払うとまず足りなくなるのでした。しかし、国内にいて普段使いで楽天モールで買い物をするためのツールと考えれば十分機能しているといってよいでしょう。
その三木谷氏には同じ起業家のブラッドを持つ者として常に勉強させていただいているわけですが、ご記憶にある方もあるかと思いますが、氏が携帯事業に出ると決めた時に私はかなり疑問視するコメントを提示いたしました。理由は大手3社の牙城があり、格安スマホも雨後のタケノコのように出てきた中でどういう位置づけでなぜそこまでして携帯事業に参入したいのか、不明瞭であったからです。
その疑問は今でも変わりません。21年12月期の決算は同社史上最悪の1338億円の最終赤字で3期連続でその幅がどんどん拡大しています。赤字のうち携帯事業の営業赤字が4211億円でうち、減価償却が837億円です。またカバーできないエリアはローミング費用をKDDIに払っているため、その費用も膨大になったというのが決算の一側面です。
三木谷氏は膨大な金額の携帯基地設置投資を前倒しで行っており、現在の国内カバー率は96%で大手の99%に肉薄してきたとも言えます。決算的には22年1-3月期がボトムでここから投資が少しずつ減り、ローミング費用も減ってくることから23年には黒字化を目指しています。
ではこの黒字計画は達成可能か、といえばやっぱりまだ疑心暗鬼であります。理由は建物を作る部分が終わってもそこに入居する人がいなければ全く意味がないように基地が出来てどこでも自前のインフラで電話が通じるとしても顧客がいなければ事業としては赤字垂れ流しになります。
携帯の市場占有率は21年9月時点でドコモ42.2%、KDDI30.6%、ソフトバンク25.1%、そして楽天は2.1%にとどまっています。私が着目しているのはソフトバンクが伸びていない点です。孫正義氏が肝いりで育てたソフトバンクは業界を震撼させたものの結局、老舗順にマーケットシェアが並んでいるのです。
これは日本の特性なのかもしれません。ブランド価値が遺棄しにくく、順位が大きく入れ替わりにくい体質があるかもしれません。建設業界には明白なランク意識があるし、航空業界でも格安航空会社が出れば大手がかつては潰しにかかっていました。携帯も楽天が2980円プランを発表すれば大手三社がこぞってそれに対抗するものを打ち出しました。これは資本の力でライバルの追随を許さないという正直、あまり褒められたものではない業界の仁義なき戦いなのだろうとみています。
携帯だけ見れば価格は十分下がってきており、更に格安携帯の選択肢を考えれば乗り換えるモチベーションはかつてに比べて大きく下がったといえます。とすれば三木谷氏が携帯で勝ち抜けるにはその携帯に組み込むアプリなりなんなりで楽天事業との紐づけがキーなのでしょう。ただし、あまり紐が明白だと消費者庁から独禁法で引っかかるような気がします。アメリカではそれがネックでアマゾンがそのような事業展開はしていません。
つまり囲い込みビジネスは経営の手法としては正解なのですが、世論と法律が許さなくなっている、という壁をどう乗り越えるのか、ここがネックではないかと思います。
私は個人的には応援しています。但し、楽天の携帯電話事業は第三者に売却できず、やるか、やめるか、という二者選択しかない特殊性を考えると三木谷氏がよほどの才覚とアイディアで事業展開する必要があるとみています。孫氏もそうですが、三木谷氏もどうやらもがき続けそうな気がいたします。
事業展開とは本当に難しいものです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月17日の記事より転載させていただきました。