日本は対ロシア政策を根本から見直せ

ロシアの軍事的挑発が一段とエスカレートしたことで深刻化したウクライナ情勢は情報戦の様相を帯びてきている。

米政府は自らのインテリジェンスを通じて獲得したと称する情報を連日のように公開して、ロシアの先手を封じ込める手段を講じている。これは2014年のクリミア併合の際に情報を出さなかったことがロシアの現状変更につながったという反省から生まれた行動だと指摘する識者もいる。

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一方、ロシアも情報というツールを活用して自らの行動が読まれないように動いている。西側の情報機関の警告により、本格的なロシアの侵攻が確実視されていた16日にロシアは一転して、軍隊を一部元の部隊に撤退させる意図を示し、外交交渉も継続する意思を明らかにした。しかしながら、衛生写真やその他オープンソースを使った調査によれば、ロシア軍は全く撤退するそぶりを見せず、むしろウクライナ国境付近での戦力の増強を図っているという報告もある。米露を中心に情報を利用した心理戦が現在進行形で続いている。

近い将来、ロシアは議会が国家承認を求めており、係争地となっているウクライナのルガンスク州、ドナツク州を超えてウクライナの中心部に攻め込むかもしれないし、そうしないのかもしれない。もしくは、軍事的威圧を用いて憎き西側に一矢報いるだけなのかもしれない。しかし、ロシアの今後の動きがプーチン大統領の一存で決まり、それが分かるのはプーチン氏本人だけである以上、ロシアがどのような実力行使に出るのかを予測する意味はない。

それより、我々が認識しなければいけないのは、ロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻をしようと思えばできる状態にあり、実際に軍事的威圧を継続していることである。それらが存在する以上、日本を含めた平和を愛する諸国民は一体となって、ウクライナの主権を脅かすロシアの蛮行を抑止する義務がある。

しかしである。

日本はまたしても自国が果たすべき義務を怠るそぶりを見せている。

ウクライナよりも自国第一?

今年に入ってから一段と激しくロシアが軍事的な挑発を強めている現状があるのにもかかわらず、日本はまるでそれが実現しないかのごとく振舞っている。ウクライナ周辺で軍事的緊張が高まる最中、林外相は15日にロシアのレシェトニコフ経済発展相と貿易や経済協力について議論する会合を開いた。

百歩譲って、今回の会合が恒例行事であったとしても、西側諸国がロシア経済ひいては世界経済にまで影響を及ぼしかねない制裁措置の実施を検討している中で、日露間の経済交流についての会合を世界に公開してまでやるのは如何なものか。これでは、いざ制裁が実施されても、日本という命綱があるとロシアに思わせて、侵攻を助長する事態を引き起こしかねない。

さらに、1月中旬にラブロフ外相側から発表された訪日の意向に対して日本政府の方から明確な返答が示されていないことも問題であり、日本が対露制裁に積極的ではないとの印象を濃くしかねない。それだけではなく、日本は自国の国益のためなら、現状変更を黙認するのではないかという誤ったメッセージが出されてしまう懸念もある。

ロシアは北方領土を返す気がない

いや、我々が反省しなければならないのは、これまで日本がロシアに取ってきたアプローチそのものなのかもしれない。今回のウクライナ危機の遠因であるクリミア併合の際、日本は名目的にしか対露制裁に参加せず、それは欧米諸国の措置と比べ極めて威力に乏しいものであった。

日本がロシアに甘い態度を取った理由は二つである。ひとつが、中国とロシアとの間にくさびを打ち込むためであり、もうひとつが北方領土返還交渉を妨げる障壁を作らないようにするためである。

現状を考慮すれば、日本がこれまで取ってきた対露政策の根拠は破綻していると言わざるをえない。まず、ロシアを対中国包囲網の一角に加えるという構想は、西側とロシアの利害が一致しなければ成立しない。しかし、クリミア併合を機に両者は反目し、今回のウクライナ危機を機に関係は修復不可能に近い状態に陥いるであろう。そのような状況においてロシアは中国に近づく以外に手段はない。現実に北京五輪の開会式でプーチン氏が参列したことで、ロシアを西側に引き寄せるという思惑が幻想に終わったことが明白になった。

さらに、制裁を甘くすることで北方領土を返還するという期待も、見直す必要に迫られている。安倍政権下でそれまでの四島返還に固執することをやめ、日ソ共同宣言という原点に戻り、先に歯舞群島、色丹島を取り戻すことに専念をする交渉条件の転換自体は間違ってはいない。

しかし、北方領土の一部が返還されれば、日米安保条約を基にそれらの島に基地が建設されるのではというロシアの懸念から、安倍政権下での領土交渉は何も実質的な成果を日本が得られないまま終わった。プーチン氏は日本が北方領土の返還の前提条件である、平和条約を締結したければ日米安保条約から日本は脱退するべきだとまで述べていた。

だが、日米安保条約を出した時点で日本はロシアの詭弁に気づくべきだった。米ソ冷戦の際に米軍を北海道に駐留させていれば、最もインパクトがあったものの、結局はアメリカはそれをせず、日本も要請しなかった。それなのに、現代においてまた新たな基地を日本がアメリカに頼んで北海道、いわんや北方領土に建設することは、政治的に考えてあり得ない話である。

そのようなあり得ない話を提示する時点でロシアは北方領土に関しては交渉する気がなく、交渉は単に日本を西側から引き剥がすことを意図していた。

対ロ政策を根本から見つめ直せ

以上のごとく、日本の2014年のクリミア併合以後の対ロ政策は失敗に終わったと結論付ける以外にない。そして、日本はロシアの甘言につられてしまったことを恥ずべきである。

ウクライナの主権が脅かされる事態に世界が直面している今、日本はロシア外交の転換の必要性に迫られている。日本は西側と協調して対露制裁に加わることを躊躇してはならない。そして、日本のロシアに対する根本的な姿勢はウクライナへの本格的な侵攻がなかったとしても変わらなければならない。